ポケモンGOで甦る愛しのアイアンマン ~ポケモンが運んできたちょっぴり切なくて心温まる物語

ポケメモリアル ポケモンGOで甦る愛しアイアンマン
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世界を席巻しているポケモンGO。一昨日、日本でも解禁となり、どこもかしこもポケモンGOの話題一色!といっても過言ではないほど。オーストラリアでは日本に先駆けて10日より開始しており、熱中する人続出でサーバーがダウンする騒ぎに。

〔参照〕ポケモンGO、豪ではついにサーバーがダウン 熱中し過ぎに警告も

そんなポケモンGOが、ついにローカル紙にまで取り上げられるようになったか…と、いささかうんざり気味で記事を読み始めたところ、予想外の展開に…………思わず涙。。

ローカル紙の表紙を飾っていたのは、ポケモンGOでポケモンと記念撮影する一人の女性。当地のビーチ際でよく見かけるベンチの前で撮影していた。

そこは、シドニー北部ビーチのクイーンズクリフ。この場所が思いがけずポケストップとなり、彼女は驚きと共に様々な思い出が蘇ってきたという。

このポケストップとなったベンチの横には、ひとつのプレートが掲げられている。彼女の弟、サクソンの名が刻まれたメモリアル・プレートだ。そのすぐ前に、ポケモンが現れた。悲しい思い出と懐かしい思い出が交錯するポケモンの記憶――――――――

記憶は6年前の2010年に遡る。

ゴールドコーストで開かれていたオーストラリア最強のライフセーバーを決めるイベント「アイアンマン大会Ironman (Surf Life Saving Championships)」に、彼女の当時19歳の弟サクソンが出場していた。

サクソンは、クイーンズクリフのサーフ・クラブに所属し、若くしてライフセーバーとして活躍。水泳やサーフィンの能力はもちろんのこと、ライフセーバーとして必要なスキルのすべてにおいて長け、将来を嘱望されていたティーンエイジャーだ。

ライフセーバーにとってはその能力の高さを証明し、この職種において最高峰の称号となるのが「アイアンマン・チャンピオン」である。サクソンは15歳以下、17歳以下の部でたて続けにタイトルを獲得し、オーストラリア最強のティ-ンエイジ・アイアンマンとして名を馳せた。

そして2010年、彼のティ-ンエイジャーとして最後のタイトルとなる19歳以下の部に出場。当然のごとく、優勝すると見られていた。

ところが、この時、アイアンマン大会が開かれていたクイーンズランド州沖には、カテゴリー2のサイクロンが接近、海は大荒れ。大会が開かれるゴールドコースト沿岸部へも高さ4.5メートルに達する高波が押し寄せると予測されていた。しかし、大会主催者は、国内最高クラスのライフセーバーばかりが出場することから、海の怖さを甘く見ていたのか、大会を延期することなく決行した。

これが彼の運命を大きく変えることに――――

19歳以下の部のサーフスキー・カテゴリーに出場していたサクソンは、運悪く大波にのまれ、海の彼方へと消えてしまったのだ!

国内最高クラスのライフセーバーが集結していたにも関わらず、その場にいた100人以上のボランティアさえもどうすることもできずに、彼の姿を見失った。

荒れ狂った海は、サクソンを連れ去り、見つかったのは南へ1kmも離れた場所だったという。意識不明の状態で発見されたサクソンは、急いで病院へと運ばれたが、彼の意識が再び戻ることはなかった。

そしてサクソンは伝説の人となった。

彼が所属したクイーンズクリフ・サーフ・クラブ傍のビーチ前には、彼の栄光を称え、その名を刻んだプレートが掲げられた。

サクソンは子供頃、ポケモンが大好きだったと、姉アリエールは語る。
二人で一緒にポケモン・カードを集め、サクソンはすべてのカードを集めて自慢していたという。そして、二人で父親にお願いしてポケモンの映画に連れて行ってもらった時には、父が寝入ってしまい、サクソンと一緒に引きずって帰ったこともあったそうだ。

そんなポケモンが大好きだった亡き弟のメモリアル・サイトに突然現れたポケモン。

彼女は今、愛する弟がポケモンになって現れたかのような気持ちなのではないだろうか。

アリエールはサクソンを思い出しながら静かに口を開いた。

「ポケモンがここに現れて、サクソンもきっと喜んでいることでしょう。ポケモンGOをきっかけにこの場所を訪れることで、もっとたくさんの若者たちがオーストラリア最高クラスのライフセーバーの一人であった弟サクソンのことを知り、子供たちがサクソンをお手本として、この場所から彼の意志を継いでいってもらえたら嬉しい」

サクソン・バード メモリアル・サイト

About Me
Miki Hirano平野 美紀 
自然に魅せられ、6年半暮らしたロンドンからオーストラリアへ移住。トラベル・ジャーナリストとして各種メディアへの執筆、ラジオ/テレビ出演などで情報発信しながら、メディア・コーディネーターや旅行情報サイトの運営も。目下の関心事は野生動物とエコ。シドニー在住20年以上。詳細なプロフィールはこちら。
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