原発被災地の子供たちに、通学不要なネット授業を!

ノーザンテリトリー・アリススプリングスの通信学校 School of the Air (画像:Wiki)
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 福島第一原発事故による放射能汚染が広がりを見せ、福島県だけでなく、周辺各県への被害が拡大しています。関東圏の農産物や遠くは静岡県のお茶などにまで、規制値を超える放射線物質が検出され、地元のものですら不用意に口にできない事態となりつつあります。

 今回の原発事故は間違いなくチェルノブイリ原発事故を超えており、個人的には、アメリカが日本在住の自国民を退避させる目安として出した「80キロ圏外への退避」が望ましいと思います。ですが、住まいや仕事など、様々な事情から、簡単には移住=疎開できないという家庭も少なくないでしょう。

 ですが、大人はまだしも子供への放射線被曝は、計り知れないリスクを伴います。放射線による被曝の危険度は、高年齢になればなるほど低くなり、成長期である赤ちゃんや子供が最も高いのです。それなのに、福島の原発から80キロ圏内の子供たちは、今この汚染がどんどん進む中でも学校へ通学し、授業を受けることを余儀なくされています。

 その上、政府は元々年間1ミリシーベルトとしていた子供への放射線被曝量を20ミリシーベルトまで引き上げ(参考記事 記事2)、さらには、子供たちが通う学校の校庭で高い放射線量が測定されても、「校庭の土の上と下を入れ替えれば、放射線量は大幅減できる」などと、気休めのような対策を打つのみ(参考記事)。

 さらには、「福島産の牛乳や食材は危険だという風評を払拭するため」と称し、学校給食に県内産物を使うことを提唱する大人まで出てくる始末…(参考記事)。これでは、子供たちは外部被曝のみならず、体内摂取による内部被曝まで促進させられ、ますます癌や白血病をはじめとする放射線障害(参考記事)が起こる確率を高めることに繋がります。

 放射線による体への不調は、すぐに出るものではありません。5年後、10年後…後から影のように忍び寄ってくるのですから、できる限り被曝を避けなければならないはずなのに……。

放射線被曝をできる限り避けるためのネット授業

 今回の原発事故のように、目に見えない放射線被曝という恐怖にさらされながら、閉め切りの校舎で授業を受けさせるのも酷ですし、そんなことをしても100%防げるわけではありません。何より、登下校時の被曝も心配です。本来であれば、80キロ圏外への退避=疎開が最も望ましいのですが、それが不可能な家庭の子供たちのために、義務教育である小中学校のインターネット経由による通信学習ができればと考えます。

 これは、当地オーストラリアでは比較的ポピュラーなスタイルのリモート学校『 SCHOOL OF THE AIR スクール・オブ・ジ・エア 』をモデルにしてはどうか?と思っています。

 広大な国土を有し、一部の都市部を除けば、ほとんど人間が住んでいないアウトバックと呼ばれる僻地が広がるオーストラリア。それでも、そんなところにも点々とファーマー(農家、アウトバック地帯では主に牛飼い農家)が住んでいます。隣の家まで100キロ以上、隣の村までは300キロ以上という家も少なくありません。

 こんなところの子供たちは、学校へ通おうにも遠すぎて、通学は不可能。ですから、通信学習で単位を取得し、通学生同様の学歴を取得するのです。

※オーストラリアのアウトバックについては、こちらこちらにも記事を書いていますので、ご参考に。

SCHOOL OF THE AIR スクール・オブ・ジ・エアの成り立ちと仕組み

 SCHOOL OF THE AIRは、上記のような過疎地の子供たちへ学習の機会を与えたいという思いから、1948年にアリススプリングスという一部のエリアで航空無線を使って始められ、その後、このケースをモデルに1956年から本格的に始まりました。そして、1960年代後半には、ほぼオーストラリア全土のアウトバック地帯へと拡大し、今日でも続けられています。

<SCHOOL OF THE AIRの仕組み>

  1. 地域のメインとなる町にスタジオを置き、先生はこのスタジオからカメラに向かって授業を開始。
  2. 生徒は各自宅で授業開始の準備。インターネットが利用できるところでは、PCを立ち上げて、先生から呼びかけられるのを待つ。
  3. 先生は生徒の誰が授業に参加しているか確認。(点呼のようなもの)
  4. 先生がスタジオで授業する様子をインターネット経由で配信。
  5. 先生は質問なども適宜投げかけ、生徒との交流を図る。
  6. 年に数回、子供たち同士が本当に生で顔をあわせる機会を作る。

 オーストラリアではまだインターネットのインフラが不十分なエリアがあるため、今でも無線やラジオで行われているところもあります。ですが、日本のようにインターネットのインフラが整っている国では、映像の送受信もできるネット授業が最も適した手段と考えます。この場合、必要となるのは、インターネットができる環境と授業をインターネット配信するスタジオ、そして各生徒が受信するPCのみ。

故郷との繋がりを絶たない「ふるさと補習校」

 また、このネット授業に加え、故郷とのつながりを断たない「ふるさと補習校」も合わせて行うのが理想です。これは、@assam_yamanakaさんとのTwitter上でのやりとりの中で出てきた案ですが、海外の日本人子女は、現地校に通いながら故郷=日本(日本語)を忘れないために、週末などに日本人学校=日本語補修校へ通わせる家庭が多くなっています。この補修校の発想を国内の「ふるさと」へ繋げるというものです。

 地元に留まる子供たちには、普段は自宅でネットを駆使した通信教育で学んでもらい、年に数回は疎開した子供たちも含め、放射能汚染が少ない安全な場所で定期的に「ふるさと補習校」を開催する。昔やっていた林間学校のようなものを想像してもらえば、わかりやすいと思います。この数日間は、これまで同じ学校に通っていた親しい友人達と再会できる懐かしい時間となり、とくに普段自宅学習の子供たちにとっては、思いっきり外で遊べる機会になるような、楽しいプログラムを教師の皆さんに考えてもらえればと思います。

 危険を冒しながら学校に通わせることを止め、各自宅で衛星通信(現在は衛星インターネットが主)による学習ができる、このSCHOOL OF THE AIRのような仕組みを日本でも確立させ、少しでも安心して学習できる機会を子供たちに作ってあげることが、私たち大人の役目ではないでしょうか?

【参考資料】

About Me
Miki Hirano平野 美紀 
自然に魅せられ、6年半暮らしたロンドンからオーストラリアへ移住。トラベル・ジャーナリストとして各種メディアへの執筆、ラジオ/テレビ出演などで情報発信しながら、メディア・コーディネーターや旅行情報サイトの運営も。目下の関心事は野生動物とエコ。シドニー在住20年以上。詳細なプロフィールはこちら。
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