オーストラリア先住民族であるアボリジニの人々は、「Real People=真実の人々」と呼ばれている。それはなぜか?
物欲を持たず、すべては宇宙(自然)の神から与えられるものである、と信じている。だから食べる糧を備蓄したり、自ら作ることはない。何も持たずに旅に出る。食料は、私(自分)が生き続ける運命であるならば、神が与えてくれるはず。食料が手に入らなければ、私はこれ以上生きる必要がないのであろう、と考える。
嘘をつかず、曖昧な作り話をせず、想像や憶測で何かを語ることはない。自らの目で見、耳で聞いたことを仲間と共有する。そうして、何千年もの長い時を経て語り継がれてきた先祖の教え、地球創生の神話『ドリームタイム』を大切に生きてきた人々。
我々は宇宙(自然)に生かされているのだといい、物質にあふれた現代社会においても尚、お金や物に執着することなく生きる―
その姿は、物質や金銭にまみれた資本主義の西洋社会からやってきた人たちにとって、価値観を根底からひっくり返されるような驚きであった。そして、アボリジニのような暮らしこそが本来人間としてあるべき姿であると悟った西洋人らから、「Real People=真実の人々」と呼ばれるようになったと言われている。
1980年代後半から1990年初頭にかけて、アボリジニの人々のこうした姿を実際に目にしたアメリカ人女性やイギリス人旅行作家が、自らの体験を基に記した書籍『ミュータント・メッセージ/マルロ・モーガン』、『ソングライン/ブルース・チャトウィン』が欧米でブームとなり、太古の昔から脈々を受け継がれる生活を今もなお守り続けるアボリジニが、世界的に注目されることとなったのである。
現在では、オーストラリア政府による貧困な先住民への政策で、生活保護手当を貰うアボリジニもおり、その金で飲酒生活に明け暮れたり、また、犯罪に手を染めてしまうアボリジニもいないわけではない。しかし、以前も書いたように、今でも、冒頭のような価値観を持ち続け、宇宙=自然への崇高の念を心の中心に据えているアボリジニたちも少なくない。
アボリジニの人々と数奇な旅をした体験を綴った『ミュータント・メッセージ』で、マルロ・モーガンは冒頭にこんな言葉を書き記した。
なにも持たずに生まれ、なにも持たずに死ぬ。
私は最高に豊かな人生を、なにも持たずに目撃した。
―マルロ・モーガン
真の豊かさとは何か?を考えさせられる、アボリジニの精神世界。その教えは、本来私たち誰もが持っていたものだ。しかし、物とお金にあふれた現代では、そのことを誰もが忘れ去ってしまっているのではないか…
最高に豊かな人生を送れるはずなのに、忘れてしまったもの― それを、私たちはもう一度思い出してみたい。
自分がここにいることを幸せに思うのであれば、同時に祖先に感謝することができる。
食べ物があることにありがたさを感じられるのであれば、それらを与えてくれる大地に感謝できる。
人間はひとりでは生きられないとわかっているのなら、人々が協力し合い、仲良く生活していける。
宝石を見て美しいと感じるのであれば、自分の中にもその美しい輝きを作れる。
お金ではかえない物があることに気づいているのならば、心を大切にできる。
人は一人ひとり異なっていることを知っているのであれば、無条件の愛で接することができる。
この世を去るときには魂だけが永遠であることを知れば、魂に財産をつけようとすることができる。
―『アボリジニの教え』より
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自然に魅せられ、6年半暮らしたロンドンからオーストラリアへ移住。トラベル・ジャーナリストとして各種メディアへの執筆、ラジオ/テレビ出演などで情報発信しながら、メディア・コーディネーターや旅行情報サイトの運営も。目下の関心事は野生動物とエコ。シドニー在住20年以上。詳細なプロフィールはこちら。
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