シドニーを襲った100年に一度の猛烈な嵐が示唆するもの

シドニー北部沿岸部で被害にあったビーチフロントのカフェ&パブ
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 2016年6月3日の夜から5日にかけて、シドニーを100年に一度という猛烈な嵐が襲いました。

 今回の嵐は、北からの暖かく湿った空気が大量の雨と強風をもたらし、ブリスベン辺りから南下しながら移動。シドニーに到達する頃には、サイクロン(台風)のカテゴリー1級となり、わずか2日程度で6月の平均降雨量に達したほど!

 嵐の通過ルートとなった東部沿岸部一帯で、川の氾濫や貯水池が溢れるなどして洪水が発生、各地で大きな被害を出しました。

 中でも、最も大きな被害が出たのが、シドニー北部ビーチ『ノーザン・ビーチズ』と呼ばれる地区の湖と海に面したエリアです。かつてないほどの豪雨に見舞われ、大量の雨水が湖に流れ込み、湖があふれ、周辺の住宅地が浸水。

 その上、5日がちょうど新月に当たり、大潮(潮の干満の差が最も大きくなる)となったことから、満潮時には2m以上海面が上昇。この湖は、海と繋がっているために、満潮時には湖面も上昇し、さらに大量の水が周辺の住宅地に溢れだしてしまったのです。この結果、この地区の住民数百人が避難を強いられることになりました。

 また、海面上昇と共に猛烈な嵐が高波を引き起こすことが予想されたため、海に面した住宅はとくに注意が必要でした。

 実は、嵐が本格化する前の3日午前中のうちに、SES(State Emergency Serviceの略で、州の緊急救助隊)が、『津波避難マップ』を発表していました。これは、津波などによって洪水が発生した場合、どの辺りがどの程度浸水し、被害がでるかをシュミレーションしたものです。

 しかし、SESのFacebookにこのマップのことが投稿された途端、「この嵐によって、こうなるというの?」「こんな時に発表しなくても!」などと、批判的な書き込みが相次ぎ、パニック騒ぎとなったため、SESが「津波警報ではない」とコメントを発表するなど、大きな騒動に発展。人々は、被害に遭うことなど想定しておらず、他人事のように思っていたのかもしれません。

Tsunami evacuation maps for Sydney and NSW making waves on social media
‘This is not a tsunami warning’: Evacuation maps cause panic

 ところが、実際、シドニーに嵐がやってきた時、まさにこのマップの避難レッド・ゾーンとされたエリアが、とんでもない被害に遭ってしまったのです!

 猛烈な嵐が引き起こした高波が、満潮時の高潮と相まってその威力を増し、海は大荒れ。津波避難マップでレッド・ゾーンで示されたビーチ・フロントの住宅に、巨大な波が襲いかかりました。

 波の破壊力は凄まじく、ビーチ(砂浜)が50メートルほどそっくりさらわれ、住宅の一部が崩壊。プールや塀、バルコニーの土台などが海側へ落ちてしまいました。この住宅は、嵐が去った今でも、高潮による大波が押し寄せているために、毎日、徐々に土地がえぐられ、今にも家屋が落ちそうな状態になっているところもあります。

 実は、このビーチは、以前から専門家らがこうした危険性を指摘しており、シー・ウォール(防波堤)を造る計画がありました。2002年には、該当カウンシル(役所)が、1.1kmほどのシー・ウォール造成計画を発表したところ、住民らの猛反対にあい、数千人規模のデモに発展。計画がとん挫した経緯も…。

Wall of humanity lines up against councils November 18 2002

 その後、2014年にもシー・ウォール造成が議会で認可承認されたのですが、費用をだれがどの程度負担するかで揉め、計画途上となっていたのです。

 というのも、こうした問題は、関係するのが個人の所有地となり、それを造ることによる恩恵を受けられるのは、あくまでもそこに住む住民のみですので、公費(税金)をどこまで投入していいのか、という難題がつきまといます。無関係の住民は、税金が使われることに反対の立場をとるでしょう。

 シー・ウォールを造るのには、一軒当り140,000豪ドル(現在のレートで1,116万円程度)かかるそうですので、喜んで払いたいという人は少ないでしょうし、ましてや自分にはなんら関係のない人が、支払った税金が使われることを嫌がるのも無理からぬ話。

 とはいえ、カウンシルと州政府もこのまま放置するわけにもいかず、該当住民と話し合って、被災した住宅が面している海側に共同でシー・ウォール造るという話になってきていますが、わずか500メートルほど1ブロック先の住民らは、「うちだってまったく被害がないわけじゃないし、今後、同じようなことが起こらないとも限らないのに、うちのところには造ってもらえないなんて!」と、不公平感をあらわに…。

 それに津波だけに限らず、川が氾濫しやすく、洪水が起きやすいエリア、豪雨などで地滑りが起きやすいエリア、この国ならブッシュ・ファイヤー(森林火災)が起きやすいエリアなど、様々な自然災害の危険性が高いとされるエリアは、言い出せばきりがないほど、他にもたくさんあります。

 高波に襲われる危険の高いビーチ・フロント住宅のみ、役所や州政府の援助の下で災害対策が施されるのはフェアじゃない!他にもあるこうした様々な自然災害の危険と隣り合わせで暮らしている住民たちへの援助はどうなるのか?など、厳しい意見もチラホラ……。

 ビーチ・フロントの家は、たしかに風光明媚で、住んでいて気持ちいいことでしょう。毎日、目の前に広がる海を眺めながら暮らせるなんて、なんて贅沢な!と思う人も多いと思いますが、こうした被害に遭うリスクは、どうしても高くなることは否めません。リスクを覚悟で住むか、という問題に直面しそうです。

 今回の件で改めて感じたのは、住むところを決める時は、可能な限りリスクの低い場所を選んだほうがいいよなぁ…ということ。自然の脅威は、人間が推し量ることなどできないと認識しておくことが重要だとつくづく実感したのでした。保険会社や役所との骨の折れる交渉も含め、誰の責任だとか、誰の(何の)せいだとかいう面倒な闘争にも巻き込まれたくないしね…(^_^;)

About Me
Miki Hirano平野 美紀 
自然に魅せられ、6年半暮らしたロンドンからオーストラリアへ移住。トラベル・ジャーナリストとして各種メディアへの執筆、ラジオ/テレビ出演などで情報発信しながら、メディア・コーディネーターや旅行情報サイトの運営も。目下の関心事は野生動物とエコ。シドニー在住20年以上。詳細なプロフィールはこちら。
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地球温暖化で鳥が小さくなっている!?

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 地球温暖化が叫ばれる昨今、実際に温暖化しているのか否か、定かではありませんが、気候は確実に変化していると実感します。

 昨年から今年にかけて、オーストラリアでは各地で大洪水に見舞われ、2月には超巨大化したモンスター・サイクロンが襲来。日本をはじめ、アメリカやヨーロッパなどの北半球でも豪雪に見舞われるなど、異常気象ともいうべき気候変動は地球規模で起こっているといえそうです。

 こうした気候の変化が、実際に地球上生物に与える影響はあるのでしょうか?

 2009年に発表された「気候変動で鳥が小さくなっている」という、ひとつの衝撃なレポートがあります。

 それは、オーストラリア国立大学のガードナー博士らの研究グループが、オーストラリアにおける鳥の生態を調べていたところ、同種の鳥のサイズを約1世紀前と比較すると、大きさ・羽の長さが約2%~4%近くも小さくなっていたことがわかった、というもの。鳥たちの中で最も縮小が顕著だったのは、オーストラリア東海岸に生息する「バリゲイティッド・フェアリーレン / Variegated Fairy-wren」という鳥(上写真)で、現在シドニー近郊で見られるサイズは、ちょうど1世紀くらい前にブリスベン近郊で見られたものと同サイズになっているとか。

 緯度にして、シドニーより7度ほど赤道に近いブリスベン。鳥類は、赤道に近いほど小さくなる傾向があるそうです。これは、ベルクマンの法則と言い、赤道近くに生息する鳥ほど小型で、高緯度になるほど大型化する傾向があると言われています。つまり、現在のシドニーは、昔ならブリスベンくらいの緯度と同程度の気候になってきているということに―。

 気候区分によると、シドニーは完全な温帯であるのに対し、ブリスベン・ゴールドコーストあたりは亜熱帯に属します。冬は氷が張るほどではないけれど、そこそこ寒くなるシドニーに比べ、ブリスベンおよびゴールドコーストあたりは冬でも日中は半袖でも過ごせるほど暖か。その違いは距離的にも、また気温差からみても、東京と高知くらいの差があります。(下の図はピンの位置がゴールドコーストになっていますが、距離感の参考に)

オーストラリアの上に日本を重ねた図注意)南半球では上が赤道に近くなります。

 たしかにシドニーでは近年、スコールのような通り雨が増えたり、どこか熱帯を思わせる鳥の鳴き声が聞こえたりするようになった気がします。これらを温暖化と呼べるのかどうかはわかりませんが、気候が亜熱帯化しているのではないか?と思うことは、他にも多々あり、間違いなく気候が変わってきているのだろうと実感せざるを得ません……。

【ANU Climate Change Instituteによるレポート】Australian Birds Shrinking, Climate Cause
【オーストラリアの気候と特徴】4つの気候帯 by オーストラリア政府観光局 – 教育旅行サイト(公式)

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