鳥たちは知っていた !? 殺人サイクロンの脅威

増水するケアンズ郊外のバロン滝
標準

 2月3日午前0時頃、世界最大級の超大型サイクロン(南半球における台風)が、クイーンズランド北部に上陸し、大きな爪跡を残しました。現在でもまだ13万世帯以上が停電、様々なインフラも復旧していない状況です。

 今回のサイクロンの名称は、Yasi。聞きなれない感じですが、フィジー近海で発生したため、フィジー人の名前だそうです。(発音は、ヤシーor ヤッシー or ヤジーと人によって微妙に異なる)

 上陸地点は、ミッチョンビーチ付近。人口の集中するケアンズやタウンズビルをはじめ、グレートバリアリーフ観光のゲートウェイとしても人気の高いエリア。それだけに、発生当初より甚大な被害が懸念されていました。

 サイクロンYasiは、勢力をどんどん強めながらオーストラリア大陸に接近。サイクロンやハリケーンの強さを示すレベルで最高のカテゴリー5へと発達。 上陸寸前には、中心気圧922ヘクトパスカル、サイクロンの目(台風の目)は直径50kmにも及び、風速は最大290km/h(83メートルくらい?)、サイクロン全体の大きさは、なんとアメリカ大陸をも丸呑みしてしまいそうなほど巨大!!

世界最大級の超大型サイクロンYasiをアメリカの地図上に重ねた図

世界最大級の超大型サイクロンYasiをアメリカの地図上に重ねた図News.com.au

 これはもう、かつて誰も見たことのないほど超巨大な熱帯低気圧であり、国内メディアも「モンスター」と呼ぶほどに。その破壊力は、2006年に同地を襲ったサイクロン・ラリーや2005年にアメリカ南部で甚大な被害をもたらしたハリケーン・カトリーナをも上回るのではないかと推測されていたため、クイーンズランド州政府も速くから緊急事態宣言を発令し、対策本部を立ち上げるなど、早い段階で対応を始めていました。

 推測された最悪の事態は………サイクロンが上陸する時間が満潮時と重なるため、最大で潮位が6~7mも上がるのではないかということ。数メートルの高波の発生。そして、最大290km/hもの猛烈な風の破壊力。これは、巨大なトルネード(竜巻)並みです。もし、予測通り海面が上昇し、高波が押し寄せたとすれば、ケアンズの街は水没してしまうことに…。

 そんな最悪のシナリオをもとに、2月1日の午後までには一部の地域で強制避難勧告が出され、ケアンズでも数千人が避難所へ。それでも勧告を無視して居続けた人もいたようですが、幸運なことに人的被害は、自宅の締め切った室内で発電機を使っていてガス中毒で死亡した1名と、行方不明の夫婦2名のみ(2月5日現在)。これは、奇跡といっても過言ではありません!

 しかし、政府による勧告がなければ、一体どれだけの人々が避難、備えをしていたでしょうか?

 でも、、、

 鳥たちは、誰からも情報を得ることなく、自らのセンサーで自然の脅威をキャッチし、とっくに避難していたようです────

 サイクロン上陸地点に最も近いミッションビーチの裏手には、深い森が続いています。それは世界最古級の森であり、世界遺産としても登録されている太古からの熱帯雨林。

熱帯雨林は鳥たちの楽園

熱帯雨林は鳥たちの楽園

 そんな森に住んでいた住民から、貴重な証言が上がっていました。熱帯雨林に棲むたくさんの鳥たちのさえずりを毎日楽しんでいたというこの男性は、1月31日の朝、突然異変に気づきます。

 それまで毎日、驚くほど多くの鳥たちが、まるでコーラスを楽しむように鳴いていた森が、シーンと死んだように静まり返っていたのだそうです。何の音もしない、静寂の森……ただただ、数千年もの昔からこの地で生き続けてきた木々たちが、威圧的に鬱蒼と生い茂っているだけ。。。

 その何ともいえない不気味さに、「これは、尋常じゃない…」と感じたとか。

 この話は、鳥たちが殺人的パワーを持ったサイクロンがこのエリアを襲う異常事態に気づき、人間たちが行動を起こす1日前には別の場所へ移動していた・・・・・・と解釈できます。

 しかし、我々人間は、今、自分たちのほうへ向かっているサイクロンの存在もちろん、その大きさや破壊力なぞ、衛星等を利用した近代的なシステムを駆使しなければ、わかるはずもありません。しかも、サイクロン上陸の数時間前まで、太陽が出ていていいお天気だったようですから、きっと多くの人がそのまま “のほほん” と過ごしていたことでしょう。

 ところが、野生動物たちは自ら悟り、対処できている。もちろん中には、このエリアに生息するカソワリーという飛べない鳥のように、もしかして物理的に不可能な種もいるかもしれません。でも、世界的大惨事となったプーケット島周辺での津波の時にも、被災地では野生動物の死体はほとんど見つかっていないなど、彼らは独自に異常事態をキャッチできる能力を持ち合わせているよう。

 おそらくこうした感覚は、本来、生物すべてが持っているものなのではないでしょうか?
 でも……便利な文明の利器に頼りすぎて、人間はそれをなくしてしまった。

 私たち人間が失ってしまったものは、途方もなく大きいような気がしてなりません。。。

About Me
Miki Hirano平野 美紀 
自然に魅せられ、6年半暮らしたロンドンからオーストラリアへ移住。トラベル・ジャーナリストとして各種メディアへの執筆、ラジオ/テレビ出演などで情報発信しながら、メディア・コーディネーターや旅行情報サイトの運営も。目下の関心事は野生動物とエコ。シドニー在住20年以上。詳細なプロフィールはこちら。
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