W杯アフリカ大会の伏兵、イタリアを苦しめた白い巨塔 -ニュージーランド

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国民の期待を一身に背負い、アジア地区予選をトップで抜け、早々に今大会出場を決めたオーストラリアの陰で、虎視眈々とW杯出場を狙っていた“白い巨塔” がその存在感を世界に知らしめ始めている。

国技とも言えるラグビー国代表のニックネームである「オールブラックス」=黒の反対色である白をとって、「オールホワイツ」と呼ばれるニュージーランド・サッカー代表チーム。

ニュージーランドもオーストラリア同様、ラグビー人気に押され、サッカーはイマイチ人気がない。しかも、オセアニア地区全般的にサッカーのレベルは低く、W杯出場枠は0.5にとどまり、世界レベルには到底及ばないと言える。

だが、世界最強の呼び声高いラグビー代表に見られるように、国民のスポーツ熱は高く、個々の身体能力も高い。なにより、オージー同様、体がデカイのが強みだ。そんな彼らにとって今大会は、28年ぶり2度目のW杯出場となる。

レベルの低いオセアニア地区の中でも最も強かったオーストラリアがアジアへ加入したことで、地区内に敵と言えるチームがいなくなり、ほぼ無敵状態でオセアニア地区予選をトップで抜けると、アジアとの大陸間プレーオフでバーレーンを破り、本大会への出場を決めたのだ。

しかも、今回のニュージーランドには、Luck(運)がある、といえる。(としか思えない)

元々オーストラリアと一緒にアジアへの移籍を希望していたニュージーランドだが、そのままオセアニアに留まったことで、無敵で地区トップとなり、さらに、これまでのオセアニア枠では南米5位とのプレーオフを制することが必要だったが、今大会出場権を賭けての戦いは、アジア内グループ3位同士の2チーム間プレーオフを制した相手(今回はバーレーン)でよかった。

#こういっちゃ何だが、南米とアジアではレベルに差があり過ぎる。のでは?と思うのだが。。

しかし、ニュージランドが組み入れられた今大会F組は、決して楽なグループではなかった。…はず。前大会の覇者イタリア(世界ランキング5位)を筆頭に、世界屈指の高レベル地区とも言える南米パラグアイ(同31位)、レベルの高いチームがしのぎを削るヨーロッパのスロバキア(同34位)と同組。

サッカー競技そのものがようやく勢いづいてきたばかりのニュージーランドは、現時点の世界ランキング78位と、どう見ても最も格下であり、世界中のサッカーファンの中にもほとんど気に留める人などいなかっただろう。

だが、蓋を開けてみるとその活躍ぶりには目を見張らざるを得ない。

初戦のスロバキアでは、技術力を見せ付ける華麗なパスワークで優勢のスロバキアに対し、豪快で少々荒削りなロングボール作戦で攻めるも、なかなか得点できず、後半に1点を入れられ、そのままアウト(負け)か…と思いきや、ギリギリのロスタイムで同点シュートを決め、ドロー(引き分け)とする。この戦いぶりだけでも、世界中、いや何より自国のキウイ達(ニュージーランド人)が一番驚いたと思う。

そして第二戦目、グループリーグを難なくスルリと勝ち抜けるであろうと見られていたイタリアに対し、試合開始後すぐの前半7分に先制点を奪うことに! 27分、ゴール前でのファウルでPKを献上し、同点に追いつかれるも、イタリアは追加点を奪えないまま、ゲームオーバー。世界ランク5位の王者を相手に、再びドロー試合を演出した。

試合全般を通して、やはり技術力で上回るイタリアに始終押されっぱなしの感はあったが、GKは好セーブを連発し、DFも体を張ってよく防いだ。どんなにゴールを脅かされたって、点を与えなければいいのだ。

しかも、このゲームでもキウイラック(ニュージーランド人の運)はひしひしと感じられた。

最初の先制点の場面で、ゴールを決めたスメルツが若干(いや、かなり完璧に?)オフサイド気味であった。これは、当地オーストラリアで全試合完全生中継しているSBSの解説員も指摘していた。ハーフタイムの間にスタジオから解説を依頼された元サッカルーズのサッカーアナリストも「完璧にオフサイドだ」と指摘している。

だが、副審も主審もオフサイドのコールをしていない。つまり、あのプレーはスルーされ、ルール上OK=有効なのだ。そして、イタリア相手にドローという、ある意味『大金星』を得た。なんとツイてるんだ。すごいぞ、キウイ!! 審判にも見放され、運も尽きたかのようなオージーとは雲泥の差だ。もしかして、今大会のキウイはマオリの神がついているのかも?

#ちなみに、前大会で日本を破りグループリーグ突破を決めたオーストラリアだが、ニュージーランドとは正反対にまったくと言っていいほどラック(運)がない。
初戦のドイツ戦で主力のケーヒルが一発退場を食らい、0-4で大敗。さらに第二戦目のガーナ戦では、これまた主力のキューウェルが、(どう見ても故意には見えない)ゴール前のハンドを取られてこれまた一発退場…。残すはあと1試合、セルビア相手に大量得点するしか16強入りの道はない。どんなことがあっても諦めないオージー気質でとにかくやるっきゃないのだ!

さらに、キウイの凄いところはこれだけではない。
国家のスポーツ予算のほとんどをラグビーに注ぎ込んでいるから、サッカーにかける予算はかなり乏しい。国外の有名監督を招聘するなどというお金のかかることは到底出来ないから、国内唯一のプロチーム「ウェリントン・フェニックス」の監督が代表監督を務めている。しかも、プロチームといってもニュージーランドにプロリーグはないため、オーストラリアの
Aリーグに参加しているのが現状だ。

さらに、代表選手も国外リーグに所属している一部の選手を除き、今大会で活躍している選手のほとんどがこのウェリントン・フェニックスに所属。ある意味、すべて自国産(国内)でまかなっているようなところがあり、チームの連携も容易だろう。

高い技術力を誇る同組他チームとは異なり、ロングボールを豪快に飛ばして陣地を進め、空中戦では高身長を生かした高いジャンプで相手を押しのけ、ゴール前では体ごと球にぶつかって得点を阻止するという少々荒削りなラグビー流ともいえるサッカーで、グイグイと16強入りに近づくニュージーランド。

早々に16強入りを決めると見られていたイギリスをはじめ、フランス、ポルトガル、スペイン、そして荒削りなラグビー流サッカーに翻弄されたイタリア等、有力チームが揃って揮わない結果となっている今南アフリカ大会。
世界中の誰も関心を払っていなかった伏兵の活躍で、ますます面白くなってきた!

About Me
Miki Hirano平野 美紀 
自然に魅せられ、6年半暮らしたロンドンからオーストラリアへ移住。トラベル・ジャーナリストとして各種メディアへの執筆、ラジオ/テレビ出演などで情報発信しながら、メディア・コーディネーターや旅行情報サイトの運営も。目下の関心事は野生動物とエコ。シドニー在住20年以上。詳細なプロフィールはこちら。
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