オーストラリアの観光について考える -客が望むものと売りたいものの温度差

オーストラリア政府観光局新キャンペーンCM
標準

 オーストラリア政府観光局の新しい観光キャンペーンCMが、豪国内で話題になっている。観光キャンペーンに賭ける費用と(海外の人たちに対して)売りたい内容、そして海外の人たちがオーストラリアへの観光に期待することとの間に、温度差がありすぎるのではないか?というのだ。

 オーストラリア国内の主要紙を傘下にしているニューズ社が運営するニュースサイト「News.com.au」では、6月28日付けで以下のような記事をアップした。その問題視されているプロモーション・ビデオ(CM)を下に貼りつけてみる。

How much would the holiday in Tourism Australia’s new ad cost? A lot!
(オーストラリア政府観光局の新CM通りにホリデーを過ごすといくらになるのか?高すぎるだろ!)

 記事の内容を要約すれば、「ラグジュアリーで贅沢なところばかりを映し出し、海外からの観光客に魅力をアピールしたいのかもしれないが、観光客が本来望んでいるものとは違うのではないか?」ということ。

 ちなみに、この記事内では、このCM通りにオーストラリアを旅したら、合計で『 60,343.41豪ドル、今の為替レートだと約480万円 』になると試算。あまりにも高すぎるのではないか、としている。

 さらに、この新キャンペーンには250ミリオン豪ドルをかけていると引き合いに出し(参照)、「本来望まれているものではなく、単に自分たちが売りたいものばかりを先行させているだけなのに、こんなに高額のコストをかけることが見合っているのか?」と言いたいようだ。こうした国の観光キャンペーンにも税金が使われていることを意識し、国民が払った税金の使い道にうるさいオージーらしい意見でもある。

オーストラリアの魅力は何か?

 たしかに、オーストラリア政府観光局が売りたいような、素晴らしい景色の中で贅沢な時間を愉しめるところが、この国にはたくさんある。しかし、それらは、近年の豪ドル高のせいもあって、海外から来る人々にとっては、かなり高額なものになっているのが現状だ。いや、オーストラリア国内の人でさえ、一部の高給取りの人たちしか行けないような金額になっている。

 また、ただ単に「贅沢な時間」を過ごすだけであれば、アジア諸国にはオーストラリアでこれらに支払う額の三分の一くらいの額で、同等の「贅沢な時間」を過ごせるところがたくさんあるのだ。よって、「贅沢な時間」を過ごすために、それだけの高額を支払う価値があるのか?ということに疑問が湧く。

 オーストラリアならではの、オーストラリアにしかないもの。

 これが、本来「売り」になるべきなのに、そうでない部分が強調され過ぎている感が否めない。キャンペーンCMの映像だけに見れば、確かに素晴らしいし、美しいだけに非常にもったいない気がする。

雄大な自然とラグジュアリーは共存できない?

 例えば、オーストラリアの観光の目玉でもある「ウルル(エアーズロック)」は、雄大な風景が「売り」であるはずだ。しかし、日本の旅行会社なども「五つ星ホテルに泊まる!」など、無難な大型ホテルに観光客を押し込む。こうした傾向は、客の不満をより少なく、快適に「それ=雄大な自然」体験してもらおうとするせいなのだろうと推測するが、はたして大型ホテルに泊まって、ウルルならではの雄大な自然を余すことなく体験できるだろうか?

 私はこの問いに疑問を呈さざるをえない。たしかに、大型ホテルに泊まっても、ウルルの風景は見られる。しかし、それはただ単に「見た」だけなのであって、本当のウルルと周辺エリア(つまり、アウトバックと呼ばれる荒野)の素晴らしさを半分程度しか体験できていないのではないか?という気がするからだ。

 本当のアウトバックの凄さ=素晴らしさは、満天の星空の下で自然の音を聞きながら寝てみなければ味わえない。コンクリートで固められたホテルの密閉された部屋で、エアコンをかけながら寝たのでは、絶対にわからないのだ。

 おそらく、こうした体験をしたことのないオージーが、「私たちの国にも、(ヨーロッパにも負けない)こんなに素晴らしいリゾートがあるんですよ!」という、ある意味、「見栄」と「自らの希望」を前面に押し出した結果が、あのCMなのかもしれないな、と思う。日本でも田舎の人が「私の町にも、(東京に負けない)こんなにすごいショッピング・モールがあるんですよ!」というのと、どこか似ている気がしないでもない。

 今の時代、どこにでも人工的に造れる「ラグジュアリー」ではなく、そこにしかない「本物」を前面に押し出して魅力を伝えることができた国が、観光客の心を捉えるであろうことは間違いないはずなのだが…こうしたキャンペーンは、いつもどこか「灯台下暗し」的な感じが否めない。

About Me
Miki Hirano平野 美紀 
自然に魅せられ、6年半暮らしたロンドンからオーストラリアへ移住。トラベル・ジャーナリストとして各種メディアへの執筆、ラジオ/テレビ出演などで情報発信しながら、メディア・コーディネーターや旅行情報サイトの運営も。目下の関心事は野生動物とエコ。シドニー在住20年以上。詳細なプロフィールはこちら。
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