先日、スーパーでエビを1kgほど買ったら、1匹だけ、なにやら奇妙な形のものがあった。
んーーー??これは何???
普通のエビに比べるとやたら長い。
いや、よく見ると2匹がくっついて繋がっているような?
いやいや、さらによく見ると、繋がっている下の方の奴はエビではないように見える。
なんじゃこりゃ??
エビよりも黒っぽい“それ”は、エビの尻尾というかお尻のところに刺さっていた。
んーーーーー??なんだろ、これ???
お尻に刺さっている“それ”をひっぱって取り、マジマジとよく見ると、目があった。刺さっていたのは尖った口のようにも見える。
ちょっとタツノオトシゴに似ているような顔つき。
だけど、形が全然違う。
これまで見たことない奇妙な形の生き物だ。
とりあえず写真を撮って、本体の“それ”を空き瓶に入れて、冷蔵庫へ保管しておく。
その晩、ツイッターに“それ”の写真を投下。
もしかして、釣り好きな人などが知っているかもしれない…という、微かな望みをかけて。。
なんか変なのがエビのお尻に刺ささってた!なんだこれ? 3枚目の写真は裏。 pic.twitter.com/GX4swTzESs
— Miki Hirano (@mikihirano) 2016年10月16日
しかし、黒っぽくて奇妙な“それ”は、あまり見向きもされず(悲)…でも、一人のフォロワーさんが反応してくれた!
ちょっぴり期待に胸をふくらまし、回答を待つことしばし。
@mikihirano コチかホウボウの一種に見えるけどちょっと検索した位じゃ分からなかったなー。
これはもうさかなクンに聞かないと(笑)— 連鎖球菌 (@rensakyukin) 2016年10月16日
うーん、、やっぱり難しいか、、、、だって、生まれてこのかた、見たこともない生き物だものな。。さかなクンに訊かないと!(笑)
しかし、それから13日後、“それ”の正体を知る絶好のチャンスが訪れた!!
某テレビ番組のオーストラリア博物館での取材撮影に同行した際、取材対象の女性魚類学者のボスがでてきてくれたのだ。
AMplify #podcast ep 12: Ichthyology collections manager @markmcg talks fishes! https://t.co/pZTujnRogg #scicomm pic.twitter.com/YqxJGydIdO
— Australian Museum (@austmus) 2016年6月24日
彼は、オーストラリア博物館の魚系コレクションのマネージャーとして、魚を朝から晩まで調べている学者だから、きっと知っているに違いない!
それまで真っ暗闇の中にいたのが突然視界が開けたように、希望の光が見えてきた~~~ワクワクo(^▽^)o
取材の邪魔をしないよう、そっと彼に近づき、先日撮った写真を見せながら、訊いてみた。
「これ、先日スーパーでエビを買ったら紛れ込んでいたんですけど、何という名前かわかったら教えてもらえませんか?」
「うん?これはあれかな。サヨリの子供かなぁ?サヨリだと下の口が長いんだよね」
「下の口はとくに長くはないみたいなんですよね。よく見てください」
iPhoneの画面をピンチアウトして、大きく拡大し、もう一度見てもらう。
すると・・・・
「あ!!!」
急に彼の目がキラキラ輝き、思わずニタリとこらえきれない笑みをこぼしながら、
「ちょっとこっち来て!」
と彼の研究室へ連れていってくれた。
そして、大きなPCの画面になにやら打ち込んで、いくつかの魚系の生物が映し出された画面を見せながら説明を始めたのだ。
「これ見て。シーモスの一種だと思う。これらはSeamothといって、“海の蛾”と呼ばれているんだ。この中のどれかだろう」
シーモスは、魚のくせにほとんど泳がず、海底を這って移動するという。見た目も奇妙だけど、生態も相当奇妙だ。
「これは、よくいるんですか?」と訊くと
「うーん、どちらかといえば、すごくよくいるというわけじゃない」
ほう、それは意外と珍しいということなのかも。
「でもなんで、海の蛾、なんですか?」
「それはね、左右のヒレがバタフライの羽のようにみえるでしょ?それで、そういう名前がついたんだよ」
へぇぇ、なるほど…と思いながらも、イマイチ納得がいかない私。
なぜって?だって、エビに紛れ込んでいた“それ”には、ヒレは見当たらないのだ。
「でも先生、これ、ヒレはないように見えるんですけど…」
「ああ、たぶん、畳まれているんだよ。それ、捨てちゃった?」
「いえ、瓶に入れて、家に保管してます」
「じゃあ、見てみるといいよ。ヒレが畳まれているはずだから。あ、でもそれ、どういう状態で保管してるの?液体に浸かっている?」
「いえ、空瓶にそのまま入れてあります… でも、冷蔵庫に入れてるけど、だめ?」
「ううぅんん、、、きっと乾燥しちゃってる。。。。」
「えーー!?今から塩水に入れてふやかすとかじゃ、だめ??」
「ううぅんん、、、たぶん、無理。。。。」
えええええーーーーーーーっっ、ショックーーーーっ!!!
先生ここで苦笑い。
ショックを隠せない私を気遣って、いきなり違う話を切り出す先生。
「ちなみに、日本語でバタフライってなんていうの?」
ショックに打ちひしがれて、うつむき加減に小さな声で「チョウチョ」というと、
「え?チョチョ???チョウチョ????チョウチョwwwww」
あからさまに面白がる先生。
「ユニークで面白いね!」
「でも、(シー・モスの)モスは違うんです。モスは“ガ”と言います」
「え?ガ????ガ?????ガ?????」
こんどは面白がるどころか、狐にでもつままれたように、大きく目を見開いたまま、あっけにとられている様子。
たった一音の“ガ”が、あの羽のある虫を表す単語だとは、まったくの想像外だったようだ。
「日本語でモスは“ガ”、ただ単に“ガ”というんです」
何度も何度も“ガ”を発音してみせる私。
先生も続けて、“ガ”“ガ”“ガ”と真似して発音しながら、思わず、二人ともぷっと噴出して笑ってしまった。
チョウチョ、ガ、チョウチョ、ガ と何度も繰り返す先生(笑)。
相当この2つの日本語がお気に召したよう。(^◇^;)
とりあえず、あの謎の生物の正体がわかってスッキリしたし、先生に日本語教えてあげたら大層喜んでくれたし、めでたしめでたし?(^_^;)
家に帰って調べてみたら、シーモスSeamothは日本では「ウミテング」と呼ばれるものの一種のようで、トゲウオ目だそうだから、タツノオトシゴとは遠い親戚関係のような間柄だったことがわかった。だから、どことなく顔つきが似ていたのね。
で、コイツの名前は、98% 間違いなく Slender Seamoth だろうということも判った。たぶんそうだと思うけど、最近新種が見つかったそうなので、ちょっと油断できないかも(笑)。
(形はかなり違うけど)日本近海にもコイツの仲間が生息しているらしいので、詳しく知りたい方は以下のWikiのページでどうぞ。
▼ウミテング
自然に魅せられ、6年半暮らしたロンドンからオーストラリアへ移住。トラベル・ジャーナリストとして各種メディアへの執筆、ラジオ/テレビ出演などで情報発信しながら、メディア・コーディネーターや旅行情報サイトの運営も。目下の関心事は野生動物とエコ。シドニー在住20年以上。詳細なプロフィールはこちら。
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