救えなかった小さな命 ~バンディクートの赤ちゃん

助けられなかった…バンディクートの赤ちゃん
標準

 年の瀬も迫った昨日、ヒヨちゃんを保護してから断り続けていた野生動物レスキューに向かいました。

 ヒヨちゃんのケアで手一杯だったこと、そしてヒヨちゃんがいなくなってから気が抜けてしまって、しばらく休みたいという気持ちから、その後3度ほどあったレスキュー依頼をすべて断っていたのです。

 昨日も最初は断ろう…と思っていたのですが、この前のクリスマス会で知り合ったスーからの電話だったので、断りきれず、また、救助の対象が「傷ついたバンディクートの赤ちゃん」ということで、レスキューに向かう決心をしました。

 人間に懐きにくく、恐れを抱いてしまう傾向が強いバンディクート。とても神経質で、近づくとすぐに逃げてしまいます。だから、今回のレスキューは特別ミッション。しかも、赤ちゃんですから「very special=非常に特別な」対処が必要だと、スーも念を押して状況を説明してくれました。

 場所は車で3分もかからないほどの近所。レスキュー依頼者に電話して、10分以内に向かう旨を伝え、速攻で車に乗り込みました。せっかくこの世に受けた小さな命。できる限りのことをして助けてあげたい。そう思いながら救助に向かいました。

 現場へ到着し、傷ついたバンディクートのいる場所へ案内してもらうと、そこは庭に置いてある家型の子供用遊具の中。小さな子供なら中に入って遊べるくらいの大きさのものです。

 プラスティックのドアを開け、中を覗くと隅のほうに小さなバンディクートがうずくまっています。そばには小さなガラスの容器に入れた水。発見者のおじさんが置いてあげたそうです。でも、ぐったりしていて飲んでいないようだと。バンディクートは目を閉じ、水の容器にもたれかかるような感じで、ぐったりと横たわっています。

 まだまだ小さなその子は、ロング・ノーズド・バンディクート。体長は約15cm弱(だいたい成獣の半分程度)、おそらくお母さんから自立して1ヶ月経つか経たないかくらいでしょうか? バンディクートは有袋類であるため、生後○ヶ月というのを特定するのは難しいのです。

 そして一見したところ、お尻から右足にかけて広範囲の毛がざっくりとなくなっており、肌が露出しています。少し肉も見えているのか、赤く見える部分もありました。しかも、化膿しているようで臭いも発しています。かなり重症のよう。。。急がねば!

 元々その中で見つけたのか、それとも家の人が入れたのか、聞き忘れてしまいましたが、、、とにかく早くしなくちゃ!という思いで、私もかがんで中へ入り、保護するためにそっとタオルをかけます。突然の行為にびっくりして、2,3歩ぴょんと跳ねましたが、すぐに抱き上げることができました。

 タオルを敷いたバスケットに静かに入れ、さらに抱き上げる時に使ったタオルを丸くして、顔のそばにシェルターを作り、上からもう一枚のタオルをかけて、蓋を閉じます。さぁ、動物病院へ急行です!

バスケットの中でうずくまるバンディクートの赤ちゃんバスケットの中でうずくまるバンディクートの赤ちゃん

 ラッキーなことにこのエリアには、すぐ近くに野生動物を見てくれる病院があります。私達の所属する野生動物保護団体WIRESとも連携しており、無料で診察・治療をしてくれるはず。車で3分ほどのところなのに、途中信号に引っかかったりで、ちょっとイライラ…。その間、バンディクートに向かって「大丈夫だよ。もうすぐ病院だから、頑張ろうね」と声を掛け続けていました。

 病院に到着。先客(飼い犬)がいたため、少し待たされることになりましたが、その間ずっと「頑張ろうね、大丈夫だから」と声を掛け続け、数十分後には先生に診てもらうことができました。

 しかし、先生の判断は……

 「かなり重症だ。治癒するのは難しいと思う。治療に時間がかる場合、野生の子はそのストレスも大きい。かわいそうだけど、このまま眠らせるほうがいいと思う」

 ガーン、、、頭の中で除夜の鐘を叩かれたみたいな衝撃が走り、真っ白に。。

タオルで作ったシェルターに顔を突っ込み、光を避ける夜行性のバンディクートタオルで作ったシェルターに顔を突っ込み、光を避ける夜行性のバンディクート

 先生がタオルをかけて捕まえたバンディクートを逆さにして、傷口をこちらに見せてくれました。「臭いもひどいから、きっと怪我をしてから数日は経っているはずだ。かなり化膿が奥深くまで進行しているんだよ。車にはねられかけたか、電気ケーブルに接触して怪我をし、弱っているところを猫か犬にやられたのかもしれない」と。

 私自身も抱き上げる時に気になっていた臭い、それは化膿がひどいというサインだったのです。

 「もう少し傷が浅かったら、もしくは、もう少し早く発見されていれば、少しは望みがあったかもしれない。このまま痛みに耐える続けるよりは、眠らせたほうがこの子のためだから」

 先生はそう言って、その子を連れて奥の部屋へ入っていきました。

 ああ、そんな、、、、  大丈夫だから、頑張ろうねと、約束したのに。。(涙)

 帰りの車の中で思い出される小さなバンディクートの姿。バスケットの中でうずくまりながら、開いたその小さな瞳が「生きたい」と言っていたような気がして、胸がキューっと痛くなりました。そして時間を追うごとに、後から後からあふれてくる涙。。

 助けられなくて、、ごめん。。。

About Me
Miki Hirano平野 美紀 
自然に魅せられ、6年半暮らしたロンドンからオーストラリアへ移住。トラベル・ジャーナリストとして各種メディアへの執筆、ラジオ/テレビ出演などで情報発信しながら、メディア・コーディネーターや旅行情報サイトの運営も。目下の関心事は野生動物とエコ。シドニー在住20年以上。詳細なプロフィールはこちら。
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