電気も水道もないオーストラリアのアウトバック(僻地)での暮らし

アウトバックで活躍するフライトドクター
標準

 オーストラリアは沿岸部の人口集中エリアを除き、ほとんどが人口数人から数百人程度の過疎地。こうしたリモートエリアは、アウトバックと呼ばれ、そこに暮らす人々の暮らしは想像以上に大変です。

 今回、東日本で大規模な地震が発生し、インフラが壊滅したりと、不便な暮らしを余儀なくされている方々も多いかと思います。また、都会でも計画停電などで不便を強いられている人も多いかと思いますし、今後の災害に備えて役立つことも多いと思うので、ここオーストラリアにおけるアウトバックでの暮らしは何かの参考になるではないかと思い、書き記すことにしました。

≪電気について≫

 電気は通ってませんので、基本的に自家発電です。ただ、今から被災地で自家発電というわけにはいかないとは思いますので、アウトバックでの暮らしぶりを紹介すると……

 極力節電するためもあり、日の出と共に起床、日没以後は早めに就寝。夜はランプの明かりなど、限られた明かりで過ごします。広く開けた場所があるなら松明などで明かりと暖をとります。ほとんどキャンプと同じですね。ただし、(余震も含め)地震発生の場合、火を使うことは火災発生の危険も伴いますので、可能な限り懐中電灯の利用がおすすめ。

 これから用意する場合、懐中電灯は机の上などに置けるランタン式があると便利です。また、外などを歩く場合は、頭に付けるタイプのヘッドライトが両手が使えるのでおすすめです。とくにお年寄りの場合、つまづいたりした時に手から懐中電灯が離れて真っ暗になることもあるかと思いますので、ヘッドライトなら安心です。

 電化製品は基本的に、冷蔵庫優先。とはいえ、開閉は極力少なくし、一日に何回と決めておいて、緊急でない限りは開けない。これでかなりの節電にもなりますし、保冷効果も少ない電力で可能です。また、中の物の腐敗速度も軽減できます。

 またアウトバックではないのですが、ここシドニーでも停電は日常茶飯事。冷凍庫には保冷材を常備。冷凍庫に余裕がある時は、水を入れたビニール袋やペットボトルを入れておきます。短時間ならそのままで、 長びきそうな時は、重要度の高いものから 順次少し大きめのアイスボックスに入替えたりすることで、かなり長時間の保冷が可能です。

 その他、不要なコンセントは抜くのはもちろん、テレビなども見終わったら必ず抜く。寝るときは、手元に懐中電灯を置き、トレイなどに起きた場合はそれを点灯。つまり、夜間は冷蔵庫のみが電源を使用している感じです。

≪具体的な野菜の保存方法≫

 イモ類や根菜類などはともかく、葉物野菜はとくに傷みが早いため、キャベツなどは芯の部分をくりぬき、湿らせた新聞紙を詰めておくと長持ちします。

 また、冷凍可能なものは、とりあえず何でも冷凍しておき、使う前に保冷が必要なものの周りをそれで囲んでおく。これで、解凍と冷却が一気にできますし、こんなものでも案外適度な“冷え”が得られますので、野菜類なら十分です。

≪水道について≫

 水道ももちろんありませんから、基本的に地下水を汲み上げられるところは地下水。それ以外にも雨水は必ず溜めておきます。各住宅に雨水タンクは必須で、家よりも大きなタンクを設置しているところもあるほど。(こちらで詳細をご紹介しています)

 水が濁っている場合は、以下のことを実践します。

1)底を切ったペットボトルを逆さまにし、その中に口から出ない程度の小石、炭(焚き火の燃え残り可)、砂、布の順番で入れる。
2)布の上から泥水を注ぎ、下から出てきた水を煮沸。

 これで泥水でも、ほぼ安全な飲料水になるようです。煮沸はできれば最低10分したほうが、より安全です。ただ、今回のように津波などで汚染物質の流出が考えられる場合は、確認してからにしてください。とはいえ、通常、食べなくても3週間は持つそうですが、水を摂取できないとほぼ確実に3日で命取りになるそうです。ご自分の判断で実践してください。

 また、アウトバックで遭難した場合に水を得る手段として、近くに草があれば、黒いビニールなどに青草を入れ、そのまま太陽の下にさらしておくだけでも草の水分が蒸発し、多少の水を得られます。

≪トイレについて≫

 水洗トイレも、もちろんありませんから、日本式でいうところの“ボットン便所”です。ですが、ほとんど臭いませんし、アウトバックでは基本的に汲み取りもしません。こちらではピットトイレと呼び、一般的にはコンポスト式トイレとして知られる、微生物処理トイレです。(これについても、こちらで書いていますのでご参照ください)

 今回の被災地でも、高台の家に非難している人がテレビの電話インタビューで、「トイレは困っていませんか?」という問いかけに対し、「簡易水洗なので、しばらくは大丈夫」と言ってましたが、やはり近代的設備は、こうした災害時に弱いのだなと実感しました。衛生的な問題もあるかと思いますが、旧式が一番なのかもしれません。

≪通信について≫

 電話回線はもちろん、携帯の電波も届かないところが多いので、主に衛星電話を利用しています。これは、今すぐに準備できるわけではないと思いますが、今後のために各自治体や隣保班などの単位で用意しておくといいかもしれません。

≪その他≫

 アウトバックの家庭では、ほぼ必ず犬を飼っています。これは、牧羊犬としてが主ですが、町へ買い物に行く時も必ず同行。もし万が一、悪天候などで遭難した時も犬がいるだけでも心強いですし、本当に道に迷ったときもアウトバックのような何の目印もない荒野では、犬の嗅覚が頼りになるからだそうです。

 また、病院などは近くにありませんから、フライング・ドクター(フライトドクター)が各家庭へ急行できるように配備されています。ですが、滑走路などはありませんので、開けた場所にランディング。ドクターの操縦技術もかなり高度なものが要求されます。

・・・以上、今気づく範囲で書き留めてみましたが、思い出せばまだ他にもあるかもしれませんので、気づいたら書き足したいと思います。

 アウトバックでは、買い物に行くのも数百キロ離れた町まで行かねばならないなど、通常都市部に暮らしている私達には思いもよらないほど、不便な暮らしをしています。といっても、彼らにとっては不便ではなく、当たり前の暮らしなのですが…(^^;

 ある意味、オージーはアウドドアの達人です。アウドドアでの知識は、こうした災害時にも十分役立つものばかり。今後に備えて、また、趣味と実益を兼ねてアウトドアやキャンプに目を向けてみるのもおすすめです。

 本当に世界が驚愕するほどの未曾有の災害ですが、被災地の方々、またこの災害で不便を強いられている方々、ぜひとも困難を克服して、頑張ってください!

About Me
Miki Hirano平野 美紀 
自然に魅せられ、6年半暮らしたロンドンからオーストラリアへ移住。トラベル・ジャーナリストとして各種メディアへの執筆、ラジオ/テレビ出演などで情報発信しながら、メディア・コーディネーターや旅行情報サイトの運営も。目下の関心事は野生動物とエコ。シドニー在住20年以上。詳細なプロフィールはこちら。
執筆依頼、取材代行、メディア・コーディネート等、承ります。お気軽にお問い合わせください。