カカドゥから、日本そして東北を応援する力強いメッセージ

カカドゥのアボリジニ・グループが作った日本応援のマーク
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 先週末、先日ご紹介したクーンガラの世界遺産組入れのために渡仏していたクーンガラ地区の部族代表であるジェフリーはじめ、同カカドゥ地区に暮らすアボリジニ・グループの代表らがオーストラリアに戻ってきました。

 彼らのサイトでその報告を読んでいて、驚く発見をしたのです!

 ずっと小さなアイコンしか見えていなかったので、彼らの使っているマークに何と書かれているのか読み取れていなかったのですが、アボリジニのフラッグカラーを使ったそのマークの外側にあったのは……

頑張れ、日本

頑張れ、東北

カカドゥのアボリジニ・グループが作った日本応援のマーク※クリックでサイトに飛びます。

 なんと!驚くことに、彼らは自分たちを表すマーク=シンボル(象徴)に、日本応援のメッセージを刻み込んでくれていたのです。これを見つけた瞬間、胸がいっぱいになり、熱いものが込み上げて来たのは言うまでもありません。。(涙)

 横には、このマークに関する説明も書かれています。

 ”In sympathy and solidarity with the people of Japan change your social media profile image to this logo, which reads “Ganbare, Nihon. Ganbare, Tohoku.(Courage, Japan. Courage, Tohoku).”

 「日本の人々への共感(同情)と連帯の気持ちを込めて、ソーシャルメディアに表示される画像をこのロゴに変えました(あなたも変えようよ、と言っています)。これはこのように読みます。“ガンバレ、ニホン。ガンバレ、トウホク”」

 そして、最後に “頑張れ、日本。頑張れ、東北” の『頑張れ』意味を英語のCourageと説明しています。

 Courageは勇気とか度胸を意味する単語ですが、このCourageには、精神的な意味合いが強く、信念を貫くといった感じもあり、強いて意訳すれば「苦難や不幸な出来事にもくじけず、恐れずに立ち向かう勇気」と言えるのではないかと思います。

 苦難や不幸な出来事にもくじけず、恐れずに立ち向かう勇気を持って、頑張れ!

そんな意味合いを込めて、自分たちのシンボルに刻んでくれた「頑張れ、日本。頑張れ、東北」の文字。カカドゥのアボリジニの人々に、何度「ありがとう」を言っても足りないくらい、感謝の気持ちでいっぱいです。。

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Miki Hirano平野 美紀 
自然に魅せられ、6年半暮らしたロンドンからオーストラリアへ移住。トラベル・ジャーナリストとして各種メディアへの執筆、ラジオ/テレビ出演などで情報発信しながら、メディア・コーディネーターや旅行情報サイトの運営も。目下の関心事は野生動物とエコ。シドニー在住20年以上。詳細なプロフィールはこちら。
執筆依頼、取材代行、メディア・コーディネート等、承ります。お気軽にお問い合わせください。

福島原発事故は未知の領域、被爆の危険性に関する知識も不十分

福島原発第3号機の爆発とよく似た核実験の爆発瞬間画像
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 米の原子力専門家アーニー・ガンダーセン氏が4/26に公開されたビデオで示した「3/14に起きた福島第一原発3号機の爆発が“爆轟(ばくごう)”であったこと」が、ようやく今日(6/6)になって日本の新聞でも報道された。(該当記事

 この記事によれば、財団法人エネルギー総合工学研究所の解析によって、この事実が分かり「1号機より破壊力が高い爆発が発生した」とは認めているが、「発生した水素の量の違いで」とし、あくまでも“水素爆発”として片付けたいらしい。

 しかし、先のガンダーセン博士も、英の科学者(電離放射線の権威)クリス・バズビー氏も、「福島第3号機の爆発は、一種の“核爆発”」と見ている。バズビー博士は4/12のテレビ出演で、すでにこのことについて指摘している。(該当ビデオ,参考記事)なぜそのように考えるか?について、「水素爆発では起こりえない閃光を伴う爆発=detonation(爆轟)が見られた点」をあげている。

 また、この爆発は格納容器の爆発ではなく、使用済み核燃料プールが空になり、即発臨界したためと見るのが妥当だ説明している。このことについては、このブログでも4/30の記事で解説しているので、そちらを参照のこと。(このページの画像は、バズビー博士の主張を再現したもので、福島第3号機とよく似た核実験の爆発の様子をとらえたビデオからの切抜き。元動画はこちら

独立系学者と御用学者の温度差

 私がガンダーセン博士らの見解が信用に足るとする最たる理由は、Independent(独立系)だから。これは、彼らが展開する理論はもちろん、その見解が正しいと支持するほうへ大きく傾く要因のひとつになる。学問、科学の研究にはお金がかかる。すると、どうしても資金提供者への見返りが要求されることになる。そうして癒着、都合の悪いことは言わない。公表しないという構図が出来上がる。これはしがない資本主義の悪の部分だ。

 その点、Independentの学者は、そうしたしがらみに囚われず、自由な発想、研究ができる上、発言の制約もない。つまり、この場合、原子力の悪い部分や公表されると困る部分に関して、何のためらいもない。本来、学問とはそうあるべきなのだが…。

★ガンダーセン博士は、つい最近(6/3)にも以下のような興味深いコメントを残している。Twitterのほうでもツイートしたけれど、こちらにも記載しておきます。このコメントのソース元や今後の速報などはTwitterで拾ってください。

  • 「福島の危険は我々の予想を超え長期に渡る。それは今の科学では足を踏み入れたことのない…核燃料が地面に横たわった状態で剥出しのまま過熱されている状態」
  • チェルノブイリよりも悪いという側に私はこれからも立つ。風が東京方面、南に向かって吹くことを懸念するのと同時に、もし余震等で4号機が崩壊するような事態となるなら、友人への私のアドバイスは“逃げろ”だ」
  • 「NRC(米原子力規制委員会)は、3号機の新たな問題に昨日初めて言及したが、底がブレイクアウト(崩落)し、汚染物質のすべてがぶちまけられることを懸念している。コア全体が突然落下する可能性もある」

度々修正される信用しかねるデータとチェルノブイリの教訓

 核のエネルギー量は、広島原爆の40~50倍といわれる福島第一原発(存在していたウラン量は、広島原爆の約300倍とも。さらに使用済核燃料の分を入れるとその量は膨大)(参考記事)。もし、本当に核爆発だとしたら、いや、仮にそうでないとしても、すでに3機がフルメルトダウン(全炉心溶融)しており、さらにもう1機もトラブル発生中で危険な状態なのだから、放出されている放射線物質の量は相当量あると見て間違いなさそうだ。それは、後になって上方修正されてばかりの数々のデータが裏付けている。(参考記事)…ちなみに、こうした発表はこれまでも何度となく修正されており、この数字すら信用できるものかどうかは不明。としか言いようがない…。

 また、矢ヶ崎琉球大名誉教授によれば、こうした状態で原発の上空100メートルから毎秒4メートルの風が吹いたとすると、1,500キロ以上に渡って放射物質が飛散するという。(該当記事)つまり、「日本中が汚染されたとみた方がいい」と、同教授は指摘している。

 チェルノブイリでは、(稼動中の爆発炎上という状況の差はあるけれど)2,300km以上離れたイギリスのウェールズ地方あたりまで飛散したそうだ。原発のあった現ウクライナ及び周囲の旧ソ連下の国以外で最も汚染された地域は、原発から1,600km以上離れたフランス、イタリア、スイス国境を挟んだアルプス地方だった。(参考記事)どちらも、農産物の出荷については慎重に検査を行ったそうだ。こうした事情からも、欧米の国々が福島の事故に重大な関心を寄せ、正確な情報収集に躍起になるのは当然といえる。

 そして、この事実から今、日本が学ばなければならないことは、「自分が現在住んでいるところは、福島県ではないから大丈夫」ということは決してない、ということ。まさに目の前に福島第一原発を抱える福島県は当然のこと、日本全土が危険にさらされていると認識したほうがいいということになる。

 放射線が怖いのは、それ自体が目には見えない、臭わないことだ。そして、すぐに障害が出るわけではないということも念頭に置かなければならない。チェルノブイリ事故における作業員の死亡者は28人だが、すぐに死亡した人だけではない。被曝から4ヶ月の間に、大量被曝による急性放射線障害で徐々に死亡しているのである。

 そして、周辺住民に症状が現れ始めたのは、事故後、5年後くらいから。地元の小児甲状腺癌発生率が事故前に比べ、10倍になったという。そして、今でも様々な放射線障害に苦しんでいる状況なのだ。

いまだよくわからない低線量被曝の危険性、健康への影響

 今回の事故の恐ろしさは上でも触れたように、原発作業員のようにすぐそばで大量被曝をする危険がなくとも、また、汚染が最も深刻な福島県下に住んでいるわけでなくとも、今も放射線物質がダダ漏れ状態の現状では、日本のどこにいても長期的な低線量被曝の危険があるということ。この低線量被曝の危険性、つまり長期的に低い線量の被曝をした際に受ける健康被害については、研究が進んだ現代においてもまだ、ほとんどわかっていないのだそうだ。(参考記事

 空気中に飛散する放射性物質だけでなく、降下して地面に付着したものも考えれば、農産物も危険だ。土壌に積もった放射性物質はやがて雨等によって地中に染み込み、農産物を含めた植物が取り込む。その植物を食べる動物、家畜等も放射性物質を取り込み、内部被曝することになる。また、大量に放出した汚染水のおかげで、地下水の汚染もおびただしい。汚染地下水は地中深くの水脈に入り込み、日本中の様々なところへ染み出してくる。このような状況では、日本で収穫、産出される食品のほとんどが汚染されていると考えるべきだ。

 マサチューセッツ工科大学環境健康安全室放射能防御プログラムのウィリアム・マッカトニー 副主任は、食べたからといってすぐに健康に被害がでるわけではないとしながらも「慎重を期するなら、その食品を食べない こと」と指南する。また、ノースカロライナ大学の疫学者スティーヴ・ウィング博士 は、微量であっても放射性物質が残留していることで、長期的重大な問題を引き起こすおそれがあると指摘。「原発から遠くなれば、1人当たり の被曝量は少なくて済むかもしれないが、被爆する人は多くなる」と言う。(参考記事

 とにかく、いまでもまだ、どの程度の期間、どれくらいの放射線を浴びたら、どうなるのか?ということが、よくわかっていない放射線被曝。わかっているのは、程度のほどは不明でも、健康に害を及ぼす有毒なものであることには間違いないという事実。このことを念頭に置き、甚大な被害を避けるために、可能な限り原発から遠くへ避難する。食品もできる限り遠くで収穫されたものを食べる。外出はできる限り避け、する場合には肌を露出しない、できればマスクを着用するなど、できうることはすべてやる。というのが、今出せる唯一の答えなのかもしれない。

※ちなみに、3月の事故以降「原発で核爆発はない」としていた京都大の小出裕章先生も、一度は「3号機は核爆発ではないか」という見解を示している。これは、5月に入って出てきた高崎CTBT放射性核種探知観測所のデータ(参考)を見て、「ヨウ素135が高い数値で検出されていることから、ウランの核分裂反応が異常に進んだという可能性」つまり、核爆発であった可能性を示唆したものだが(参考記事1記事2)、後に高崎のデータが修正(参照)された…という経緯がある。

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原発被災地の子供たちに、通学不要なネット授業を!

ノーザンテリトリー・アリススプリングスの通信学校 School of the Air (画像:Wiki)
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 福島第一原発事故による放射能汚染が広がりを見せ、福島県だけでなく、周辺各県への被害が拡大しています。関東圏の農産物や遠くは静岡県のお茶などにまで、規制値を超える放射線物質が検出され、地元のものですら不用意に口にできない事態となりつつあります。

 今回の原発事故は間違いなくチェルノブイリ原発事故を超えており、個人的には、アメリカが日本在住の自国民を退避させる目安として出した「80キロ圏外への退避」が望ましいと思います。ですが、住まいや仕事など、様々な事情から、簡単には移住=疎開できないという家庭も少なくないでしょう。

 ですが、大人はまだしも子供への放射線被曝は、計り知れないリスクを伴います。放射線による被曝の危険度は、高年齢になればなるほど低くなり、成長期である赤ちゃんや子供が最も高いのです。それなのに、福島の原発から80キロ圏内の子供たちは、今この汚染がどんどん進む中でも学校へ通学し、授業を受けることを余儀なくされています。

 その上、政府は元々年間1ミリシーベルトとしていた子供への放射線被曝量を20ミリシーベルトまで引き上げ(参考記事 記事2)、さらには、子供たちが通う学校の校庭で高い放射線量が測定されても、「校庭の土の上と下を入れ替えれば、放射線量は大幅減できる」などと、気休めのような対策を打つのみ(参考記事)。

 さらには、「福島産の牛乳や食材は危険だという風評を払拭するため」と称し、学校給食に県内産物を使うことを提唱する大人まで出てくる始末…(参考記事)。これでは、子供たちは外部被曝のみならず、体内摂取による内部被曝まで促進させられ、ますます癌や白血病をはじめとする放射線障害(参考記事)が起こる確率を高めることに繋がります。

 放射線による体への不調は、すぐに出るものではありません。5年後、10年後…後から影のように忍び寄ってくるのですから、できる限り被曝を避けなければならないはずなのに……。

放射線被曝をできる限り避けるためのネット授業

 今回の原発事故のように、目に見えない放射線被曝という恐怖にさらされながら、閉め切りの校舎で授業を受けさせるのも酷ですし、そんなことをしても100%防げるわけではありません。何より、登下校時の被曝も心配です。本来であれば、80キロ圏外への退避=疎開が最も望ましいのですが、それが不可能な家庭の子供たちのために、義務教育である小中学校のインターネット経由による通信学習ができればと考えます。

 これは、当地オーストラリアでは比較的ポピュラーなスタイルのリモート学校『 SCHOOL OF THE AIR スクール・オブ・ジ・エア 』をモデルにしてはどうか?と思っています。

 広大な国土を有し、一部の都市部を除けば、ほとんど人間が住んでいないアウトバックと呼ばれる僻地が広がるオーストラリア。それでも、そんなところにも点々とファーマー(農家、アウトバック地帯では主に牛飼い農家)が住んでいます。隣の家まで100キロ以上、隣の村までは300キロ以上という家も少なくありません。

 こんなところの子供たちは、学校へ通おうにも遠すぎて、通学は不可能。ですから、通信学習で単位を取得し、通学生同様の学歴を取得するのです。

※オーストラリアのアウトバックについては、こちらこちらにも記事を書いていますので、ご参考に。

SCHOOL OF THE AIR スクール・オブ・ジ・エアの成り立ちと仕組み

 SCHOOL OF THE AIRは、上記のような過疎地の子供たちへ学習の機会を与えたいという思いから、1948年にアリススプリングスという一部のエリアで航空無線を使って始められ、その後、このケースをモデルに1956年から本格的に始まりました。そして、1960年代後半には、ほぼオーストラリア全土のアウトバック地帯へと拡大し、今日でも続けられています。

<SCHOOL OF THE AIRの仕組み>

  1. 地域のメインとなる町にスタジオを置き、先生はこのスタジオからカメラに向かって授業を開始。
  2. 生徒は各自宅で授業開始の準備。インターネットが利用できるところでは、PCを立ち上げて、先生から呼びかけられるのを待つ。
  3. 先生は生徒の誰が授業に参加しているか確認。(点呼のようなもの)
  4. 先生がスタジオで授業する様子をインターネット経由で配信。
  5. 先生は質問なども適宜投げかけ、生徒との交流を図る。
  6. 年に数回、子供たち同士が本当に生で顔をあわせる機会を作る。

 オーストラリアではまだインターネットのインフラが不十分なエリアがあるため、今でも無線やラジオで行われているところもあります。ですが、日本のようにインターネットのインフラが整っている国では、映像の送受信もできるネット授業が最も適した手段と考えます。この場合、必要となるのは、インターネットができる環境と授業をインターネット配信するスタジオ、そして各生徒が受信するPCのみ。

故郷との繋がりを絶たない「ふるさと補習校」

 また、このネット授業に加え、故郷とのつながりを断たない「ふるさと補習校」も合わせて行うのが理想です。これは、@assam_yamanakaさんとのTwitter上でのやりとりの中で出てきた案ですが、海外の日本人子女は、現地校に通いながら故郷=日本(日本語)を忘れないために、週末などに日本人学校=日本語補修校へ通わせる家庭が多くなっています。この補修校の発想を国内の「ふるさと」へ繋げるというものです。

 地元に留まる子供たちには、普段は自宅でネットを駆使した通信教育で学んでもらい、年に数回は疎開した子供たちも含め、放射能汚染が少ない安全な場所で定期的に「ふるさと補習校」を開催する。昔やっていた林間学校のようなものを想像してもらえば、わかりやすいと思います。この数日間は、これまで同じ学校に通っていた親しい友人達と再会できる懐かしい時間となり、とくに普段自宅学習の子供たちにとっては、思いっきり外で遊べる機会になるような、楽しいプログラムを教師の皆さんに考えてもらえればと思います。

 危険を冒しながら学校に通わせることを止め、各自宅で衛星通信(現在は衛星インターネットが主)による学習ができる、このSCHOOL OF THE AIRのような仕組みを日本でも確立させ、少しでも安心して学習できる機会を子供たちに作ってあげることが、私たち大人の役目ではないでしょうか?

【参考資料】

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執筆依頼、取材代行、メディア・コーディネート等、承ります。お気軽にお問い合わせください。

福島第一原発から80キロ圏を退避区域とする然るべき理由

福島第一原発20km圏はこんな格好しないといけない地区になってしまった!
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 福島第一原発の事故は、人類史上最悪の原子力事故となりつつある。

 日本政府及び東電は揃って、「炉心溶融=メルトダウンはない」としてきたが、この期に及んで「第一号機については、実は3月11日にはしていた」と言う。さらに、2、3号機についてもその可能性を否定できないと発表。この日が5月14日であるから、国民は知らず知らずのうちに危険にさらされながら、この重大な事態について把握するのに2ヶ月以上もかかっていたことになる。

 ところが、実は政府と東電は、この最悪の事態、つまりメルトダウンの可能性を震災発生直後には把握していたのではないか、ということがここ数日新たにわかってきた。

 というのも、震災発生翌日の12日に行われた菅首相の第一原発を視察に際し、原子力安全委員会の班目委員長は、「1号機の格納容器が爆発する可能性」を伝えていたということが判明(該当記事)。また、昨日(5/15)放送されたNHK教育のETV特集「ネットワークでつくる放射能汚染地図~福島原発事故から2か月~」によれば、文部科学省は、震災後早い時期から第一原発から北西に30km圏外の特定地点の放射線量を計測し、その数値を官邸及び関係各省庁に上げていたことがわかっている。この文科省が計測していたエリアは現在、放射線量が最も多いとされる地区だ。

 こうしたことから見えてくるのは、政府と東電は、最悪の事態になる(いや、その時点で既になっている)ことがわかっていたのではないかという事実。そしてわかっていながら、住民ら=国民には何も伝えず、さらには、原発事故直後に自国民に対して80キロ圏退避を命じたアメリカなどに対し、「大袈裟に騒いでもらっては困る。風評被害を招く」と一蹴したということになる。

 アメリカが自国民に対して80キロ圏退避勧告を行ったことで、日本国内からは「逃げるのか」「こういう時に真の友人かどうかわかる」「風評被害を招くから撤回せよ」という声が次々と上がり、概ね日本では、「アメリカは騒ぎすぎなんじゃね。そもそも日本で起こってることを彼らが的確にわかるはずもない。なんでも大袈裟だから、相手にすることはない」と嘲笑う声が多かったように思う。

 果たして、この『80キロ圏退避』が現実的なものであったか否か、ということは、今となっては明白。かく言うオーストラリアもすぐにアメリカに追従した国のひとつだが、彼らにはこの80キロ圏を退避区域とする然るべき理由があるからだ。

 アメリカでは、NRC(米国原子力規制委員会)が事故の現状を把握し、米国内で規定された指針に基づき防護措置勧告を行う。規定によれば、全身に対して10ミリシーベルト、もしくは甲状腺に対して50ミリシーベルトを上回る放射線量が予想される場合、勧告が行われる、ということになっているそうだ。そして今回の福島の場合は、3月14日に3号機が爆発したことを受けて、検出された数値を計算した結果に基づき、17日には「50マイル(80キロ)圏外への退避」を命じたということになる(該当記事1 記事2)。これは、NRCのヤツコ委員長が、これまでに爆発を起こしていた1号機および3号機の問題だけでなく、4号機も使用済み核燃料プールの水の大部分が無くなっているとの見解を示し、事態悪化を懸念したためだ(該当記事)。

 ちなみに、日本政府はこの時点でもまだ20キロ圏しか指示していない。(現在でも30キロ)

 しかし、それならば、なぜアメリカはその後、日本政府の抗議を受けて、「日本政府の指示する20km圏で十分である」と訂正したのか?(該当記事)という疑問が沸く。しかし、アメリカもまた日本政府の情報操作によって、翻弄されたと言わざるを得ない。

 NRCの規定によると、原発1機の事故について概ね20キロ退避(これに天候、風向き、風速、そして原子炉の問題状況など、さまざまな要素を考慮)とするらしいが、当初80キロとしたのは福島第一原発の1~4号機すべてが事故を起こした場合を想定したからだ。しかしながら、この時点で日本政府からは「一~二機のみの事故であり、放射線量も問題のないレベル」という調査報告書が上がっており、「ならば大丈夫だろう」ということになったらしい。

 ところが、蓋を開けてみればアメリカが予測した通り、1~4号機すべてが事故を起こして、それぞれ爆発、(日本政府の発表によれば)燃料棒損傷、さらにはメルトダウンと最悪の事態になっていたわけだ。

 それにしても、どういう理由かわからないが、日本では「炉心損傷」「燃料の溶融」「メルトダウン(全炉心溶融)」の3段階で定義しているというが、そもそも炉心溶融=メルトダウンは「炉心損傷」によって起こり、「燃料の溶融」は一部であろうとも、英語ではパーシャル(コア)メルト=partial (core) meltと呼び、放射性物質漏出の有無に関わらず、一部でも炉心が溶融した状態を(コア)メルトダウン=(core) meltdownとしているはず。なのに日本政府は「燃料棒損傷」と言い続け、ようやく4月18日になって「福島1~3号機で「溶融」認める」という記事が出(該当記事)、5月13日になって初めて「メルトダウン」という言葉が出てくるのだ(該当記事)。「燃料棒損傷」「燃料の溶融」「メルトダウン」がどういう状態なのか、的確な説明もないままに。さらには、メルトダウンでも「周辺住民への影響はない」と言い続ける始末…。

 そして、さらに最悪な道を日本は歩むことになる。

 日本は事故処理対策として、なぜかチェルノブイリ原発事故で行われた『石棺』ではなく、原子炉を水で満たして冷却するという『水棺』を行う。これにより、チェルノブイリが事故発生から10日で収束させたのに対し、日本は2ヶ月以上かかっても未だに収束できず、現在も進行中という決定的な違いが生じてしまう。

 また、原子力の専門家によれば、そもそも水で核燃料を冷却するには、最低3年間冷やし続けなければならないという。そうした点から見ても、『水棺』という方法には無理があり、その上、実際には、爆発等のダメージによって圧力容器および格納容器に穴が開いており、どんなに水を注入してもしたから漏れるだけだったのだ。2ヶ月以上もただ注水し続け、結局のところ収束どころか、事態は悪化の一途を辿っている。しかも、この作業に多くの人間を駆り出し、放射能汚染の危険にさらしながら…。

 こうして何万トンという水を入れ続けた結果、たっぷりと放射線物質が混入した水は止め処もなく下から漏れ出し、その汚染された水は海へと流出。さらには地下水へと混入し、そのうち時間と共に日本各地へと湧き出てくる…ということになる。現在検出されている放射能は、主に空気中に飛散したものが地上に降り注いだものかもしれないが、地下水汚染となったら、その土壌で育つ農作物はすべて放射線物質を取り込むことになるのだ。そして、その汚染は何千年も続くことになる。校庭の土の上と下を入れ替えれば線量が下がる…とかいう、気休め的なことをやってる場合じゃない!

 それに、チェルノブイリがたった1機のみの事故だったのに対し、福島では4機が同時に事故っている。さらには、福島にはチェルノブイリの10倍もの核燃料があると言われ、プルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料も貯蔵されており、状況の悪さはハンパじゃないということだ。

 事態の深刻さは、5月8日原発20キロ圏内を視察した岡田幹事長の姿にすべて表れている(該当記事)。この様は、このような格好をしなければならいような場所になってしまった…ということを如実に物語っているではないか。

 上記のような理由から、私は欧米の出した『80キロ圏外への退避』を支持するものです。これは、遠いヨーロッパの国や太平洋のど真ん中で起こってることじゃない。今、あなたの足元すぐ近くで起こっていることなのです。疎開をためらっている場合じゃない。仕事が、とか、住むところが、とか、色々諸事情はわかりますが、それもこれも命あってこそ。本当に子供の未来を考えるなら、可能な限り80キロ圏外へ。そこまで不可能だというなら、せめて50キロ圏外へ出るのが賢明だと思います。該当地区(主に福島東部、茨城北部、宮城南部)の皆さん、是非ともこの現状を理解し、的確な判断と行動を!

原子力発電所からの距離測定ツール ・・・住所を入力すると原発からの距離を計算してくれます。
福島原発事故総まとめ ・・・各原子炉の現状やこれまでの経緯がまとめられています。

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