アンザック・デーの憂鬱とマイト・シップ

アンザック記念碑があるシドニー中心部のマーティン・プレイス
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※このエントリーは、私(平野美紀)が、2004年4月26日に執筆したものです。ODNの公式サイト内で連載していたブログ記事の1つで(のちにソフトバンクテレコムに買収され終了)、今年2012年のアンザックデーに寄せて再アップしました。

 昨日の日曜日(4月25日)は、アンザック・デーだった。なので、本日月曜日は振り替えとなり、一部の州を除いてお休み。(オーストラリアは州によって祝祭日が異なる)

アンデック・デーとは何か?

 第一次世界大戦時に、オーストラリアとニュージーランドで編成された「アンザック(Australian and New Zealand Army Corporationの略=ANZAC)」が、トルコ戦線突破のためにトルコのガリポリに上陸した1915年4月25日を記念した日。

 ちなみに、この作戦は大失敗に終わり、多くの戦死者を出した。

 このアンザック・デーには、オーストラリア国内各地と戦地となったガリポリで、亡くなった兵士達を追悼するための記念式典が行われる。

 しかし近年では、本来のアンザック隊及び第一次世界大戦関係者達(兵士や軍従事者、軍属医療関係者等)が高齢により少数になってきているということもあり、第一次世界大戦関係者だけでなく、その後の戦争も含め、参加した兵士や関係者達、遺族達全体を対象とした式典となってきている。だから今となっては、このアンザック・デーを一言で言ってしまえば、「戦争記念日」とも言える。

敵国は日本!

 第一次世界大戦以後の戦争には、もちろん第二次世界大戦も含まれる。オーストラリアにとっては、唯一の本土爆撃を受け、多数の戦死者を出した第二次世界大戦。

 しかも、その敵国は日本!

 おそらく今年あたりは、大多数がこの第二次世界大戦関係者になってきているとみられ、このアンザック・デーは年々、日本人にとって“居心地の悪い日”になってきている感じがしないでもない…。

 数年前から(いやそれ以前から?)在豪邦人の間では、「大使館から外出禁止令がでている」とか、「パレードにぶつかってしまったら唾を吐きかけられる」といった怪情報が流れたりするほどで、少しでもオーストラリアと日本との戦争のことを知っている日本人は、アンザック・デーが近づくにつれ、日々戦々恐々としている…と言っても過言ではないと思う。

 #もちろん、そんなこと全く知らないという人も多くなってきているようだし、唾を吐きかけられたり、罵倒されたりした人がいたという話は、今まで一度も聞いたことがない。ほとんどまったくのデマ情報なんだけど。

私達は日本のファシズムと戦争した

 そんなこともあって(?)アンザック・デーは、とくに用事がない限り外出はせず、いつも自宅で過ごすことが多い。でも、自宅で過ごしていても、テレビからは式典の様子や退役軍人へのインタビューなどの映像が次々と飛び込んでくる。

 やはり思っていた通り、今年は第一次世界大戦関係の生存者はあと6名となり、ほとんどが第二次世界大戦関係者と一部のベトナム戦争関係者になっているようで、第二次世界大戦で日本軍の捕虜=POW(Prisoner Of War)となった退役軍人の方がインタビューに答えていた。

 私が見始めたのは途中からだったので、どの隊に属していたか等の詳細は聞くことができなかったが、その退役軍人の方は、あの『死の鉄道(DEATH RAILWAY)』として知られる『泰緬鉄道』建設に従事した人であった…。

 実は元々、オーストラリアの元日本軍捕虜だった方々が、どのような見解をされているのか?日本に対してどのように思っているのか?、個人的にとても知りたかった。それは、イギリスの元POWの方々の中には、今でも日本を恨み、それこそ日本製品まで毛嫌いして一切使わないという人も少なからずいる…という事実をロンドンに住んでいた頃に知ったからだ。

 こうしたPOWの方々の心情を察してか、イギリスでは8月15日戦争記念日を名指しで『VJ Day(Victory over Japan Day:表記はoverの部分がinになるなど、いくつかある)』としているほどで、この事実はほとんどの日本人が知らないのではないかと思う。

 だから、同じように日本軍の捕虜となったオーストラリア人の方々がどのように思っているのか?これは、この国に住む日本人ならとくに、絶対に知っておかなきゃならないことだと思っている。

 くだんの退役軍人の方の話は、要約するとこんな感じであった。

 「たしかにあの頃は、大変でした。地獄だったとも言えます。正直なところ、ナガサキに原爆が投下され、(戦争が終わって)心の底から喜びました…、その後(被爆者のことや壊滅状態になった町など)のことを知らなければ。

 あの頃は、友人がどんどん増えた。日本人や韓国人の人達と一緒に風呂に入り、言葉はわからないけれども、日に日に友情が芽生えていった。それに引き換え、もうこの歳になると、年々友人達がこの世からいなくなってしまう…実に寂しいことです。

 私達は日本のファシズムと戦争したのです。

 戦争というのは人類にとって悲劇です。でもあの戦争で、私には日本人や韓国人などの友人(Mate)ができた。それはかけがえのない事実で、私の人生に置いて貴重な体験だったのです」

 インタビュアーから「イギリス人もいたわけですが、彼らからは過酷であったと様々な不平や憤りが表面化していますが、それについてあなた方はどう思いますか?また、最後にイラク戦争についてコメントをお願いします。」と質問され、さらにこう続けた。

 「彼ら(イギリス人捕虜)より、私達の方が適応能力があったということでしょう。私達は倒れてもまた起き上がれる力があった。でも、残念ながら彼らには無かった、そういう違いかも知れません。

 それに、日本軍からはジュネーブ協定に基づいて賃金をもらっていました(*)ので、それでドラッグ(大麻など?)を買ってましたねぇ(笑)。

 イラクのような遠いところのことに注力するのは、あまりいいことではないと思います。
国費も際限なくあるわけではないのだから、もっと近隣のことに力を注いだ方がいい。例えばアジアや南太平洋諸国のこととか、ですね。」

 自分達は日本のファシズムと戦争したと言い、たしかに過酷ではあったけれど、友人が増えたことが嬉しかったと、まるで楽しい思い出話をするかのように、にこやかに話す前向きな姿勢には、正直頭の下がる思いだった。

 オーストラリアでは確かに、先に書いたイギリスのPOWの方々(今でも日本製品を一切使わない等)のような人がいるという話は、今のところ聞いたことがない。ここオーストラリアでは、日本製品の性能の高さは誰しもが認めるところだし、スシをはじめとする日本食だって老若男女問わず人気だ。

 そういえば以前、キャンベラの戦争記念博物館を訪れたという日本人の方が、退役軍人の方から館内説明を受け、帰り際、こんな言葉を掛けられたという話も耳にしたことがある。

 「戦争は過去のもの。戦争というものが人間をも変えてしまう…すべては戦争の責任なのです。日本人を恨むことなどありません。私達の使命は、こうしてあの体験を人々に間違えなく伝えることです。是非大勢の日本の方々にも来ていただきたい。」

 間違えなく伝える…そう、上記の戦争博物館には、アンザック・デーのキッカケとなった地中海(ガリポリ)への軍隊輸送の際、護衛する役割を日本の軍艦が行ったことに対する謝辞も掲示している。

そのためか、近年在豪邦人の間で囁かれるデマ「アンザック・デーに、日本人だとわかったら痛い目にあう」どころか、退役軍人(おそらく第一次大戦参戦者)に敬礼されて、恐縮したという人もいるほどだ。

 たしかに、これはいくつかの事例に過ぎないのかもしれないし、中には過去の戦争において敵であった日本をよく思わない方々もいるのかもしれないが、 こうして見てくると概ね「過去のことをいつまでもとやかく言うのではなく、先を、そしていいところを見ていこう」という前向きなオージーの気概を感じる。

オーストラリアのマイト・シップ(友好関係)

 “オージー=オーストラリア人は、フレンドリー”

 よくそんな風に言われるけれど、実は口は悪いし、意外とぶっきらぼうで、単純にフレンドリーというわけでもない…と思う(苦笑)。それよりも、正直で前向き、そして寛大な心を持ち、何かを恨む前に自分のプラスになるように考えるから、誰とでも友達になれる。オーストラリアのMate ship/マイト・シップ精神は、こんなところから来ているのかも…と感じた2004年のアンザック・デーだった。

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 (*)=この話「捕虜に賃金を払っていた」というのは、私もタイのカンチャナブリー(泰緬鉄道の鉄橋などがある)郊外にオーストラリア政府が建てた記念館で目にした。(よく知られるJEATHではなく、ヘルファイア・パスのところにできた新しい記念館)

 #くだんのインタビューに答えていた退役軍人の方の話の中に、「イギリス人より、オーストラリア人の方が適応能力があった」というのがあったけれ ど、実際、捕虜の中には米(飯)など、日本式の食事を嫌い、拒否した人もいたよう。でも、確かにオージーなら何でも食べただろうと思う(この国の食文化の 発達の早さは、こんなところにもあるのかも?)し、蚊などの虫がほとんどいないイギリスで生まれ育った人と、そういう状況が当たり前だったオージーとで は、感覚の違いがあるのではないかと思う…。

 また、本当のことを言えば、この話題には触れないでおこうかとも思ったのだけど、日本人として知っておくべきことだと思うので、あえて書くことにしました。まただからと言って、いろいろ言われているような悲劇的な事実がなかったとか、そういうことに言及するものではなく、「こういう一面もあったし、 こんな風に思っている人もいる」ということを知っていただけたら、と思います。

【関連コラム】 敵国の大将を招いたアンザック・デー

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Miki Hirano平野 美紀 
自然に魅せられ、6年半暮らしたロンドンからオーストラリアへ移住。トラベル・ジャーナリストとして各種メディアへの執筆、ラジオ/テレビ出演などで情報発信しながら、メディア・コーディネーターや旅行情報サイトの運営も。目下の関心事は野生動物とエコ。シドニー在住18年。詳細なプロフィールはこちら。
執筆依頼、取材代行、メディア・コーディネート等、承ります。お気軽にお問い合わせください。

脱原発と原発維持を考える

美しい日本を台無しにする放射能汚染
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 冷静沈着で才女と言うイメージ(あくまでもTVなどで拝見する限り)の有名ジャーナリスト氏が、先日ツイッターで以下のような発言をしていたので、驚いた。

原発に関してはリスクを最大限に考えろというのに、脱原発のリスクをあまり考えていない人が少なくない。本気かつ現実的に脱原発を求めるからこそ、そのリスクやデメリットを見つめ、どう解決し乗り越えていくか考えないと。原発なくなったけど、経済どん底、凍死者餓死者続出、というのじゃ困るし (Tweet

原発やめても誰も何も困りませんという極端な脱原発安全神話は、原発安全神話の裏返しに過ぎない、という気がする。脱原発を目指せばこそ、そのリスクとそれに対する対応策や備えをしっかり考えようじゃありませんか…というと経団連の回し者みたいに言われるのはほわい? (Tweet

 どちらのツイートも50人以上にリツイートされ、ツイッター上ではかなり拡散されたと思われる。この方はこれ以外にも再三、「放射能はたいしたことはない。心配には及ばない」的な発言を繰り返す原発推進派といわれる大学教授らに共感の意を示している。

脱原発=原発を再稼働させないリスクとは何なのか?

 まず疑問に思ったのは、「原発なくなったけど、経済どん底、凍死者餓死者続出」というのは、ありえるのか?ということ。これは結論からいくと、「原発あるけど、事故が起きたら経済どん底、放射能で死者続出」というのが正解なのではないだろうか。

 実際、今回の福島原発事故で多くの国々が日本製品を(放射能汚染の懸念から)拒絶したり、安全性の確認を求めるなどの措置を講じている。これが経済への影響がないか?と言われれば、「ない」とは言い切れないはずだ。また、国内に流通する食品も汚染を心配し、放射能測定結果を気にしながら、買い控えたりする人も多くなった。これらが、経済の停滞ではなく、何だというのか。

 原発事故が起きて死者が続出したか?と聞かれれば、現時点では顕著な現象として見られないかもしれないが、今後はどうなるかわからない。放射能(放射線被曝)による健康への影響は、医療被曝も含め、「ある」ということはわかっている事実だ。そもそも、これほど大規模な放射能汚染は、チェルノブイリ原発事故以外に地球上で起きたことはなく、その影響はいまだによくわかっていない。こんなことを言うと、「放射能は心配ない」と主張する人たちは、これを逆手に「ほら、健康被害が出るかどうか、わからないじゃないか」というのかもしれないが、被害が出てからでは遅いのだ。わからないからこそ、無意味な被曝は避ける必要がある。常に最悪の状態を想定する…それが『リスク管理』というものだ。

 とはいえ、現時点で原発を稼働させない=代替の発電方法での電力供給に移行する場合に、(電力)創出の不安定さなどから、一時的に経済が落ち込む可能性もないとは言えない。しかしそれは、あくまでも一時的であり、代替発電による安定供給が確立されるまでの間だ。また、それに向かって進むことで、新設する再生可能エネルギーの発電施設や従来の火力・水力発電所の整備拡張などで、コスト増になることも否めないだろう。脱原発を主張する人々も、それに伴う増税や電気料金の値上げ、多少の不便は覚悟する必要がある。

経済活動は民が支えるもの

 上記のような脱原発のリスクを鑑みても、原発を維持するリスクのほうがはるかに大きい。原発は、一旦事故を起こせば、放射能がまき散らされ、国土の一部は半永久的に使えなくなる。そして、放射能汚染された土地で農産物や製品を作っても、人々が不信感を抱いて買わなくなることは、今回の福島第一原発事故を見ても明らかだ。こうした事態のほうが、よほど経済ダメージも大きく、人々の精神的ダメージも計り知れない。その上、放射能による健康被害が続出し、国を構成する民(国民)に支障がでたら、経済活動どころの話ではない。国の存続にかかわる問題だ。

 『経済』とは、社会の生産活動のことだ。その生産活動を支えているのは民である、ということを、原発維持を主張する人々は忘れている。

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捨てられなかった新聞 ~311東日本大震災を振り返る

311の東日本大震災を報じるオーストラリアの新聞
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 あれから1年。もうそんなに経ってしまったのか、という思いと、まだ1年なのか…という思いが複雑に交差する。

 2011年3月11日。当地シドニーでは夕方に差し掛かる頃、ふとつけたテレビのニュース映像が、突然、BREAKING NEWS-速報-に切り替わった。

 映し出された映像は、大海原から押し寄せてくる白い波。横に長く一直線に白線を引いたような波が、陸地に向かって押し寄せていく瞬間だった。アナウンサーは、「日本で大きな地震が発生した模様です」と早口に告げる。

 え?日本??

 Japan, Earthquake, Tsunami という単語を処理しようとするが、動揺してしまって、頭の中が真っ白になっていく。そして、次の瞬間に映し出された映像は、日本のどこかのテレビ局内を撮影した映像。激しく揺れる電灯や倒れてくる棚や机…そこに映っている人や文字から、やはり日本なのだ、と頭が理解する前に視覚でむりやり認識させられたような格好だ。

 そのまましばらくニュースに釘づけになっていた私は、はっと我に返り、実家へ電話してみるが、一向に繋がらない。一体どうなっているんだ?大丈夫なのだろうか??と、動揺と焦りがどんどん大きくなって、胸が潰れそうになったのを覚えている。

 オーストラリアのニュースチャンネルは、あの瞬間からずっと日本の地震、津波に関する緊急特番を放送し続け、私は家族との連絡が取れず不安を抱えながら、食い入るようにテレビ画面を見つめていた。結局、夜半には実家と連絡が取れ、無事を確認できたが、その日はそのまま、深夜までテレビから目が離せなかった。

 翌日の新聞は、当然のごとく、日本の地震のことが一面を飾り、悲惨な日本の写真が否応なしに目に飛び込んできた。その翌日も、そのまた翌日も……オーストラリアの新聞は、震災翌日の3月12日から5日間ほど、日本の被災地の写真が大きく一面になった。

 無残にも瓦礫の山と化した生まれ故郷を前に膝を抱えて泣き叫ぶ少女、降りしきる雪の中で力尽きるようにへたり込む老人…

 新聞に掲載された写真はどれも生々しい日本の現実が切り取られていた。そして、この5日分の新聞は、1年経った今も捨てられずに部屋の片隅に重ねたままになっている。

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チェルノブイリ原発事故(放射能)と狂牛病の奇妙な関係

狂牛病発症は牛たちが被曝したせい?
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 チェルノブイリ原発事故から25年。事故発生は1986年4月26日、その頃私は日本にいたが、その6年後の1992年、英国ロンドンの地に降り立っていた。

 今から思えば、相当放射能汚染された物を食べていたんだろうなぁ…と考えつつ、あの頃の食生活を思い出しながら、あることに気が付いた!

 ロンドン滞在中には、その後日本でも問題になる「BSE(牛海綿状脳症)」こと狂牛病騒動が起き、牛肉を食べる機会は限りなくゼロだったし、同時期にドイツでの豚肉サルモネラ菌蔓延等もあって、鶏肉ばかり食べていた。今思い出しても、かなりヒモジイ感じの食事だった(苦笑)。

 イギリス国内で最初の死亡者が出た「狂牛病」。その後、死者は増え続け、確か100名以上に上ったと記憶している。当時、英国政府は国内で飼育されているほとんどの家畜牛を焼却処分し、病気の蔓延を防ごうとしていた。思い出せば当時、英国内では牛肉がほぼ一斉にスーパーから消え、代わりにオーストラリアから輸入された「エミュー」の肉が並んでいた。そういえば、あの時初めてエミュー肉を食べたのだった。

日本でも宮崎をはじめとする各地で「口蹄疫」が流行ったことがあるが、「狂牛病」=死者が出た=人間にうつる、というイメージを植え付けないための情報操作のようにも感じる。これは単に口蹄疫は人間にはうつらないが、狂牛病はうつると一般的にはいわれているからだ。そう思う根拠は、イギリスで騒動になった頃も最初は「foot-and-mouth disease(口蹄疫)」とされていたが、死者が出た頃から「mad-cow disease(狂牛病)」と変わったように記憶している。

狂牛病=BSEとは?

 狂牛病=BSEは、スクレイピーという神経を冒す病にかかり、プリオン異常が起こった羊の残骸を餌として与えたことから、牛に感染。本来は人には感染しないと言われていた羊の特有の病だったはずのスクレイピーが人間に感染したと言われている。

 そして、こうした経路でBSEにかかった牛が、さらに肉骨粉となり、家畜飼料として世界中に散らばり、各地で狂牛病が発生した、と信じられている。(注:オーストラリア、ニュージーランドは輸入していないため、発症していない)

 「狂牛病」騒ぎの発生源がイギリスだったことから、当時の発症元はイギリス国内だけと思いがちだが、実は、イギリスに比べると数は少ないものの、イギリスで最初の発症者が出たのとほぼ時を同じくして、ヨーロッパ各地で発症していたのだ!(参考資料 , ドイツのレポート, ポーランドのレポート

 ここで、ふと、あることに気が付いた。それは、「チェルノブイリ原発事故後に、イギリスも放射能汚染されたのだから、狂牛病はそれと関係ないのだろうか?」ということ。

遺伝子の異変によっても起こる狂牛病

 まず、狂牛病について、もう一度おさらい。Wikiに興味深い記述を発見した。(参照

2008年9月11日、米国農務省(英語略:USDA)動物病センター(英語:National Animal Disease Center/UADC)で研究を行ったカンザス州立大学のユルゲン・リヒト(Jurgen Richt)教授は、BSEの病原体である異常プリオンは外部から感染しなくとも牛の体内での遺伝子の異変によって作られ、BSEを発症する例につながると発表した。この発表は2006年アラバマ州でBSEを発症した約10歳の雌牛の遺伝子の解析から異常プリオンを作る異変が初めて見つかったことによる。人間でも同様の異変が知られ、クロイツフェルト・ヤコブ病を起こす。

つまり、外部から感染しなくても、遺伝子異常で起こる可能性があるということ。

 ということは、やはり、チェルブイリから約2000キロも離れたイギリスまで届いたという、原発事故由来の放射性物質による可能性も否定できない。放射性物質による被曝で遺伝子異常が起こる可能性があることは、よく知られている事実だ。

チェルブイリ原発事故と狂牛病発生時期は重なるという事実

 さらに様々な文献をあたっていて、興味深いものを発見した!

 それは、ハンガリーのブタペスト技術経済大学Budapest University of Technics and Economyの博士課程の学生が2000年に発表した研究論文だ。原文のまま、該当箇所を抜き出してみる。

The Chernobyl accident occurred at 01:23 hr on Saturday, 26 April 1986, when the two explosions destroyed the core of Unit 4 and the roof of the Chernobyl reactor building.

In Britain, the first cases of the Mad Cow Disease can be dated back to 1986, in the same year when the Chernobyl accident occurred.

 まず、チェルノブイリの原発事故で炉心が破壊され、2度の爆発が起こったのが1986年4月26日土曜日の1時23分であることに触れ、イギリス国内で最初の「狂牛病」が発症したのが同じ1986年に遡ることができると指摘している。このことが示すのは、私が在英時代に狂牛病が騒動になったのは初の死亡者が出たからであって、実はその前から発症していた患者はいたということ。裏を返せば、1986年以前には発症していないということだ。

The Chernobyl accident occurred 15 years ago, nevertheless the caesium-137 (half-life: 30 years) radionuclides and strontium-90 (half-life: 90 years) radionuclides could be the most likely candidates for causing the MadCow Disease in cows and the Creutzfeldt-Jakob Disease in humans.

 そして、チェルノブイリの事故は15年前ほど前のことだが、セシウム137(半減期30年)やストロンチウム90(半減期90年)といった放射性物質が大量に放出されたことに触れ、それらが狂牛病および人間に発症するクロイツフェルト・ヤコブ病を引き起こす有力な候補となる、としている。

 つまり、チェルノブイリ原発事故由来の放射能で牛たちが被曝したことで、遺伝子異常が起き、BSE=狂牛病が発症したのではないか?ということになる。

放射能という目に見えない敵が放つ、形を変えた攻撃

 この研究論文では「科学界は、チェルノブイリ事故の影響を一部分しか究明しておらず、こうした知らない事実が多いにもかかわらず、英国政府もそうした事実を心配もせず、調査しようともしていない」と指摘する。この論文以外にも、調べてみると「狂牛病とチェルノブイリ事故の関連性は否定できない(明らかになっていない)」とする意見もかなりあるようだ。

 チェルノブイリ原発事故は、旧ソ連下にあったということもあり、事故の検証も完璧にはできていないばかりか、放射能が人間や生物、植物などの生態系に与える影響も、いまだよくわかっていない。しかも、突き詰めて調査研究もできていない(事実は「公表されていない」が正しいかも?)…というのが今の現状なのである。それは、そうした調査研究ができるだけの国力のある国のほとんどが原発推進国である、ということと無関係ではなさそうな気がする。

 …と、ここまで書いて、ピンとくる人もいると思うが、今回の福島の原発事故により、今後、狂牛病のような(もしくはそれ以上の?)わけのわからない病気が蔓延する可能性もあるということ。また、上述のWiki引用文にあるように「人間でも同様の異変が知られる」ということも、一応留意しておくべきだろう。放射能という目に見えない敵が仕掛けてくる攻撃は、後で形を変えて現れることも否定できない……ということを忘れてはならない。

続)放射能と狂牛病の奇妙な関係 (2012 年 9 月 27 日付け)

【参照】

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再生可能エネルギー:経済効果や雇用創出も考えるなら、風力よりゴミに注目!

電力を多く消費する白熱電球のゴミを訴えるアートオブジェ
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 風力発電=環境に優しい再生可能(自然)エネルギーだと主張する人が多い。たしかに、自然に吹いてくる風を利用するのだから、そう思っても仕方ないのだが、風力発電は、これまでも各所で述べてきたように様々な問題を抱えたままだ。

風力発電の問題点

 まず、第一に景観の問題。巨大な風車が列を成して立ち並ぶ姿は美観を損ねる。風力発電先進国ともいえるデンマークでは、山でも海でもどこへ行っても、人工の風車が林立しているのが視界に入ってしまい、どんなに自然と触れあおうとしてもできない…と苦情が出ている。また、風車を立てるために無残に切り開かれた山や道路も問題視されている。

 そして、最も問題視されているのが近隣での騒音被害だ。騒音とは、耳に聞こえる音のことだけではない。人間の耳には聞こえない低周波音も含め、人体への影響も大きい。風車から近い場所での頭痛、発熱、不眠症はもとより、1km以上離れた場所で音が聞こえないにも関わらず、「寝付けない。眠れない。目が覚めてしまい、船酔いのような気持ち悪さを覚える」という人もいる。

 また、人間よりもさらに敏感な小動物への影響は計り知れない。鳥類の衝突が真っ先に上がる問題だが、衝突せずとも死に至らしめる事態も発生している。カナダの風力発電施設周辺では、外部損傷のないコウモリの大量死が報告され、風力発電の是非が問われている。

 ならば陸上じゃなく、海上ならいいではないか?という意見も短絡的だ。イギリス近郊の海洋上に作られた風力発電施設周辺では、魚がいなくなって漁業が打撃を受けたり、イルカなどの大型海洋ほ乳類も姿を消した。中には死因不明で陸に打ち上げられたものもいたという。

 このように、風力発電は今のところ、景観を含めた環境への影響は甚大。その上、風力発電先進国デンマークでさえ、風力でもバイオマスでも賄いきれず、スウェーデンの原子力でつくった電気を一部とはいえ買っているという事情がある。しかしながら、世界では「風力発電=環境に優しい再生可能エネルギー」という面だけが誇張され、それを全面に出して莫大な資金を注ぎ込み、風力開発に力を注ぐ国や企業も少なくない。日本もしかり、だ。

風力発電問題へさらなる一石を投じる英国環境団体

 一昨日の6/12、この問題にさらなる一石を投じる論文が発表された。イギリスのEnvironmental Services Association(環境サービス協会)が発表した『緑の成長:ゴミを見逃さないで』だ。

 この英国環境サービス協会は、これまでもゴミに注目してきた環境団体で、ゴミの削減、リサイクル、活用を個人だけでなく、企業ベースで考えていこうという趣旨で発足された。この度発表された論文は、「風力発電に投じるお金があったら、ゴミに注目せよ」という、まさに今盛んに叫ばれ、注目を集める『再生可能エネルギー』の開発、新規着工への警告ともいえる内容になっている。

風力発電と同等費用で様々なメリットを生むゴミ

 簡単に説明すると、風力発電に必要な膨大な資金をそのままゴミ問題に投じることで、さらなる雇用と経済発展、環境保護、その上、僅かながらも発電さえ可能というものだ。

 例えば、1兆ポンドの資金を投じる場合:

<海洋設置型風力発電事業>
=削減できるカーボン(炭素)年間約1,400,000トン。650人の分の雇用。創出できる電気量3,250ギガワット。

<近代的なゴミ焼却及びリサイクル事業>
=削減できるカーボン(炭素)年間約4,000,000トン。3,000人の分の雇用。創出できる電気量300ギガワット。さらに、リサイクル品仕分け徹底による1,400,000トンのリサイクル資源確保。

英国環境サービス協会が提唱するゴミのあり方

 これだけメリットがあるにも関わらず、一国の政府機関さえ、目先が新しく、いかにも環境保護に尽力しているかのような印象を与える風力発電を主体とする再生可能エネルギーにばかりに目がいってしまうことは、非常に嘆かわしい事態だと英国環境サービス協会は主張する。

 彼らも決して、風力発電を否定しているわけではない。ただ、そこまで莫大な資金を注ぎ込む余裕があるなら、ぜひとも政府レベルでもう一度ゴミ問題に着目して欲しいと願っているという。

 ゴミ問題はおそらくどの国でも深刻な問題だろうと思う。人間が生活する限り出る、膨大なゴミ。それを減らし、さらに生かすためにどうするか?ゴミ問題こそ、人類が解決しなければならない最重要課題ではないだろうか。
 …つまり、自分のケツは自分で拭け…ってことですね。。

【参考】

※執筆日:2011年6月14日

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福島原発事故は未知の領域、被爆の危険性に関する知識も不十分

福島原発第3号機の爆発とよく似た核実験の爆発瞬間画像
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 米の原子力専門家アーニー・ガンダーセン氏が4/26に公開されたビデオで示した「3/14に起きた福島第一原発3号機の爆発が“爆轟(ばくごう)”であったこと」が、ようやく今日(6/6)になって日本の新聞でも報道された。(該当記事

 この記事によれば、財団法人エネルギー総合工学研究所の解析によって、この事実が分かり「1号機より破壊力が高い爆発が発生した」とは認めているが、「発生した水素の量の違いで」とし、あくまでも“水素爆発”として片付けたいらしい。

 しかし、先のガンダーセン博士も、英の科学者(電離放射線の権威)クリス・バズビー氏も、「福島第3号機の爆発は、一種の“核爆発”」と見ている。バズビー博士は4/12のテレビ出演で、すでにこのことについて指摘している。(該当ビデオ,参考記事)なぜそのように考えるか?について、「水素爆発では起こりえない閃光を伴う爆発=detonation(爆轟)が見られた点」をあげている。

 また、この爆発は格納容器の爆発ではなく、使用済み核燃料プールが空になり、即発臨界したためと見るのが妥当だ説明している。このことについては、このブログでも4/30の記事で解説しているので、そちらを参照のこと。(このページの画像は、バズビー博士の主張を再現したもので、福島第3号機とよく似た核実験の爆発の様子をとらえたビデオからの切抜き。元動画はこちら

独立系学者と御用学者の温度差

 私がガンダーセン博士らの見解が信用に足るとする最たる理由は、Independent(独立系)だから。これは、彼らが展開する理論はもちろん、その見解が正しいと支持するほうへ大きく傾く要因のひとつになる。学問、科学の研究にはお金がかかる。すると、どうしても資金提供者への見返りが要求されることになる。そうして癒着、都合の悪いことは言わない。公表しないという構図が出来上がる。これはしがない資本主義の悪の部分だ。

 その点、Independentの学者は、そうしたしがらみに囚われず、自由な発想、研究ができる上、発言の制約もない。つまり、この場合、原子力の悪い部分や公表されると困る部分に関して、何のためらいもない。本来、学問とはそうあるべきなのだが…。

★ガンダーセン博士は、つい最近(6/3)にも以下のような興味深いコメントを残している。Twitterのほうでもツイートしたけれど、こちらにも記載しておきます。このコメントのソース元や今後の速報などはTwitterで拾ってください。

  • 「福島の危険は我々の予想を超え長期に渡る。それは今の科学では足を踏み入れたことのない…核燃料が地面に横たわった状態で剥出しのまま過熱されている状態」
  • チェルノブイリよりも悪いという側に私はこれからも立つ。風が東京方面、南に向かって吹くことを懸念するのと同時に、もし余震等で4号機が崩壊するような事態となるなら、友人への私のアドバイスは“逃げろ”だ」
  • 「NRC(米原子力規制委員会)は、3号機の新たな問題に昨日初めて言及したが、底がブレイクアウト(崩落)し、汚染物質のすべてがぶちまけられることを懸念している。コア全体が突然落下する可能性もある」

度々修正される信用しかねるデータとチェルノブイリの教訓

 核のエネルギー量は、広島原爆の40~50倍といわれる福島第一原発(存在していたウラン量は、広島原爆の約300倍とも。さらに使用済核燃料の分を入れるとその量は膨大)(参考記事)。もし、本当に核爆発だとしたら、いや、仮にそうでないとしても、すでに3機がフルメルトダウン(全炉心溶融)しており、さらにもう1機もトラブル発生中で危険な状態なのだから、放出されている放射線物質の量は相当量あると見て間違いなさそうだ。それは、後になって上方修正されてばかりの数々のデータが裏付けている。(参考記事)…ちなみに、こうした発表はこれまでも何度となく修正されており、この数字すら信用できるものかどうかは不明。としか言いようがない…。

 また、矢ヶ崎琉球大名誉教授によれば、こうした状態で原発の上空100メートルから毎秒4メートルの風が吹いたとすると、1,500キロ以上に渡って放射物質が飛散するという。(該当記事)つまり、「日本中が汚染されたとみた方がいい」と、同教授は指摘している。

 チェルノブイリでは、(稼動中の爆発炎上という状況の差はあるけれど)2,300km以上離れたイギリスのウェールズ地方あたりまで飛散したそうだ。原発のあった現ウクライナ及び周囲の旧ソ連下の国以外で最も汚染された地域は、原発から1,600km以上離れたフランス、イタリア、スイス国境を挟んだアルプス地方だった。(参考記事)どちらも、農産物の出荷については慎重に検査を行ったそうだ。こうした事情からも、欧米の国々が福島の事故に重大な関心を寄せ、正確な情報収集に躍起になるのは当然といえる。

 そして、この事実から今、日本が学ばなければならないことは、「自分が現在住んでいるところは、福島県ではないから大丈夫」ということは決してない、ということ。まさに目の前に福島第一原発を抱える福島県は当然のこと、日本全土が危険にさらされていると認識したほうがいいということになる。

 放射線が怖いのは、それ自体が目には見えない、臭わないことだ。そして、すぐに障害が出るわけではないということも念頭に置かなければならない。チェルノブイリ事故における作業員の死亡者は28人だが、すぐに死亡した人だけではない。被曝から4ヶ月の間に、大量被曝による急性放射線障害で徐々に死亡しているのである。

 そして、周辺住民に症状が現れ始めたのは、事故後、5年後くらいから。地元の小児甲状腺癌発生率が事故前に比べ、10倍になったという。そして、今でも様々な放射線障害に苦しんでいる状況なのだ。

いまだよくわからない低線量被曝の危険性、健康への影響

 今回の事故の恐ろしさは上でも触れたように、原発作業員のようにすぐそばで大量被曝をする危険がなくとも、また、汚染が最も深刻な福島県下に住んでいるわけでなくとも、今も放射線物質がダダ漏れ状態の現状では、日本のどこにいても長期的な低線量被曝の危険があるということ。この低線量被曝の危険性、つまり長期的に低い線量の被曝をした際に受ける健康被害については、研究が進んだ現代においてもまだ、ほとんどわかっていないのだそうだ。(参考記事

 空気中に飛散する放射性物質だけでなく、降下して地面に付着したものも考えれば、農産物も危険だ。土壌に積もった放射性物質はやがて雨等によって地中に染み込み、農産物を含めた植物が取り込む。その植物を食べる動物、家畜等も放射性物質を取り込み、内部被曝することになる。また、大量に放出した汚染水のおかげで、地下水の汚染もおびただしい。汚染地下水は地中深くの水脈に入り込み、日本中の様々なところへ染み出してくる。このような状況では、日本で収穫、産出される食品のほとんどが汚染されていると考えるべきだ。

 マサチューセッツ工科大学環境健康安全室放射能防御プログラムのウィリアム・マッカトニー 副主任は、食べたからといってすぐに健康に被害がでるわけではないとしながらも「慎重を期するなら、その食品を食べない こと」と指南する。また、ノースカロライナ大学の疫学者スティーヴ・ウィング博士 は、微量であっても放射性物質が残留していることで、長期的重大な問題を引き起こすおそれがあると指摘。「原発から遠くなれば、1人当たり の被曝量は少なくて済むかもしれないが、被爆する人は多くなる」と言う。(参考記事

 とにかく、いまでもまだ、どの程度の期間、どれくらいの放射線を浴びたら、どうなるのか?ということが、よくわかっていない放射線被曝。わかっているのは、程度のほどは不明でも、健康に害を及ぼす有毒なものであることには間違いないという事実。このことを念頭に置き、甚大な被害を避けるために、可能な限り原発から遠くへ避難する。食品もできる限り遠くで収穫されたものを食べる。外出はできる限り避け、する場合には肌を露出しない、できればマスクを着用するなど、できうることはすべてやる。というのが、今出せる唯一の答えなのかもしれない。

※ちなみに、3月の事故以降「原発で核爆発はない」としていた京都大の小出裕章先生も、一度は「3号機は核爆発ではないか」という見解を示している。これは、5月に入って出てきた高崎CTBT放射性核種探知観測所のデータ(参考)を見て、「ヨウ素135が高い数値で検出されていることから、ウランの核分裂反応が異常に進んだという可能性」つまり、核爆発であった可能性を示唆したものだが(参考記事1記事2)、後に高崎のデータが修正(参照)された…という経緯がある。

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Miki Hirano平野 美紀 
自然に魅せられ、6年半暮らしたロンドンからオーストラリアへ移住。トラベル・ジャーナリストとして各種メディアへの執筆、ラジオ/テレビ出演などで情報発信しながら、メディア・コーディネーターや旅行情報サイトの運営も。目下の関心事は野生動物とエコ。シドニー在住18年。詳細なプロフィールはこちら。
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再生可能エネルギー:注目されるオーストラリアの太陽+火力ハイブリッド発電システム

世界一の太陽発電搭載発電所を目指すコーガンクリーク発電所
標準

 原子力発電で必要とされる燃料ウランは、オーストラリアが世界の70%の埋蔵量を誇ります。輸出シェアはカナダのほうが上だそうですが、それでもトップクラスの輸出国には違いありません。ですが、オーストラリアには原発はありません。国内の反対はもとより、それ以外の資源も豊富にあり、中でも火力発電燃料として最も効率のよい石炭の埋蔵量も豊富です。

 そのため現在は火力発電が中心ではありますが、地域毎に様々な燃料を使った発電方法が試みられています。オーストラリアは固有の生態系を守るために、行政側でも厳しい規制を設けており、また、国民意識も高いため、環境破壊に繋がることは極力避ける方向で動いています。[注1]

世界最大級の太陽光発電所を建設中のオーストラリア

ビクトリア州に世界最大級の太陽光発電所を建設中のソーラーシステム社  オーストラリアは、すでに各所で太陽光発電を実施しており、現在、太陽光発電所は着工済み未稼働のものを含めると44ヶ所(参照)。2009年に着工し、ビクトリア州北東部で建設が進められている、154メガワットの発電ができる世界最大級の太陽光発電所は、2015年の完成、2016年からの供給開始を目指しています(参照)。

 また2009年には、これまでも何度か構想に上がっていた1,000メガワットの発電が可能な、文字通り、世界最大の太陽光発電所=メガ・ソーラーパワー・ステーション(参考記事)のような発電所を14億豪ドル=現在のレートで約1,260億円を掛けて建設する構想を発表しました(参考記事)。

得意分野を統合した太陽+火力のハイブリッド発電システム

 オーストラリア、とりわけクイーンズランド州は『サンシャイン・ステート=太陽降り注ぐ州』と呼ばれるほど、年間晴天率が高く、太陽光発電に最適な環境があります。太陽光発電=ソーラーパネルによって電力を生み出すというのが一般的な発想ですが、これは実は非常に効率が悪く、上で紹介したビクトリア州に建設中の世界最大級の太陽光発電所でも、現在オーストラリアで稼動中の大型火力発電所1基分の電力しか作れません。

 太陽光では、1,000メガワット=100万キロワットの発電に必要なソーラーパネルを設置するのに、必要な敷地面積は67平方キロメートルだそうですから、東京ドーム約1,443個分に相当。土地は広大なオーストラリアですが、これではいかんせん効率が悪い…。また、稼動中の火力発電所を利用しながら、何とかできないだろうか?ということから考えられたのが、ここでご紹介する新発想の発電システムです。

 オーストラリアの重要な資源であり、世界最大の輸出量を誇る石炭。豪政府は、サンサンと降り注ぐ太陽と豊富に埋蔵されている石炭、この2つの得意分野を組み合わせたハイブリッドな発電所を今年4月に着工しました。

コーガンクリークに建設中のソーラーフィールド この取り組みは、石炭の町として知られるクイーンズランド州のコーガン・クリークに建設中の『ソーラー・ブースト・プロジェクト』と呼ばれるもので、これまでのソーラー発電の発想とは、全く異なるものです。現在稼動中の火力発電所にソーラーシステムを付加することで、両方の利点を利用する。

 簡単に言ってしまえば、巨大な太陽熱温水器+火力ボイラーによる発電所…といった感じでしょうか。太陽熱温水器は日本での利用者も多いのでご存知かと思いますが、太陽熱で水を温め、ある程度の湯温にするのは比較的容易です。この仕組みを利用し、ある程度まで温まったお湯から、さらに多くの水蒸気を発生させるために、足りない部分を火力によって補うという発想です。

 具体的には、フランス・アレバ子会社の小型線状フレネル反射器(Compact Linear Fresnel Reflector)を使った、既存発電所における蒸気発生をより高める過熱太陽蒸気技術(Superheated Solar Steam Technology)で、発電と燃料の効率アップを目的としています(参考記事)。

 コーガン・クリークのソーラー・ブースト・プロジェクトの仕組みは、ざっと以下のような感じです。

<コーガン・クリーク太陽熱発電の仕組み> ※番号は図に合わせたものではありません。
コーガン・クリークの太陽光+火力のハイブリッド発電プロジェクト

  1. 現在稼動中の火力発電所の横に、ソーラーフィールド=太陽熱システムを設置。
  2. 空冷で得た水をパイプを通じて、太陽熱システムへ分配する。
  3. 太陽エネルギーで温められた水から蒸気が発生。
  4. 蒸気をさらに加熱し、電気を生成するための中間圧力タービンへ。
  5. 火力発電所で太陽熱でできた温水をさらに加熱し、蒸気をより多く発生させてタービンへ。
  6. 蒸気でタービンを回し、発電プロセスへ。
  7. 発電後は、蒸気を空気冷却凝縮器に送って再び液化(水に)し、再利用する。

 注目すべきは、ソーラーパワー(太陽熱の力)を最大限利用する点と、使った蒸気を再び水に戻して再利用する点。これにより、より少ない燃料で済み、何より石炭を燃やす量がグっと減るため、CO2削減も可能です。発表によれば、この仕組みで年間35,000トンのCO2が削減できると言われています。

 また、このシステムであれば、従来の発電所に併設することで、着工から2年程度で設置可能。コーガン・クリークの場合は、2013年の完成を目指し、この太陽熱システムによって最大44メガワット(太陽熱ピーク時)の発電が見込まれています。完成すれば、世界最大のソーラーテクノロジー統合火力発電所になる予定だそうです。

孫氏が提唱する太陽光発電プロジェクトに意義あり!

 ソフトバンクの孫正義社長が提唱する太陽光発電プロジェクトは、休耕田や耕作放棄地を利用して、太陽光発電装置を設置するというものだそうですが(…これにより、孫氏は「50ギガワット、つまり原発50基分の発電ができる」と発言(参考記事)…)、個人的には、その休耕田や耕作放棄地は、本来の目的通り、農業に使うべきと考えます。

 東京電力の公式発表さえ『原発1~3号機がメルトダウン』していることを認めた現状では、福島をはじめ、近隣県の汚染も著しく、とても農作物を育てる環境では無くなっています。ですから、西日本で余っている田畑は、すべて本来の目的で再利用すべし。ただでさえ、食料自給率が低いとされている日本なのですから、足りない人手は福島など原発被災地の農家の皆さんに移住してもらうなどして、余すところなく、農作物を作るべきです。

 また、(現時点での)太陽光発電の効率の悪さは上にも記しましたが、具体的に日本に置き換えれば、現在の原発の発電能力をすべて太陽光に置き換えた場合、3,272平方キロメートルの敷地=東京都(2,187平方キロメートル)+大阪府(1,896平方キロメートル)の半分以上が必要になる計算だそうです(参考記事)。

 広大な土地を有し、晴天率も高く、太陽が容赦なく降り注ぐオーストラリアでさえ、ある意味、二の足を踏むほど効率の悪い太陽光発電。太陽光発電所の最大出力は、太陽の力を100%利用できた時のみ、あくまでも太陽光のピーク時の数字であることを認識する必要があります。

 ですから、ただでさえ国土が狭く、おまけに(いくら現在使ってないとはいえ)田畑を使う案では、食料自給率も低いとされる日本には適さないと思う次第。日本で太陽の力を利用するなら、現在の発電所を生かすコーガン・クリークのプロジェクトのような、ハイブリッド・システムが最もふさわしいと思うのです。

【参考資料】

[注1]とはいえ、現在のオーストラリアは、ウランや石炭採掘及び輸出をはじめ、火力発電がメインになっていることで、「環境に優しくない」と言われることがあります。WWFオーストリアによれば、オーストラリア国民一人当たりの温室効果ガス排出量は世界でも大きく、エコロジカル・フットプリント ecological footprint 数値の比較では調査対象国147カ国中6位と発表されました。ですが、私自身は(環境保護推進派でありますが)エコロジカルフットプリント、カーボンオフセットのようなものは、あくまでも机上の話と思っていますので、あしからず。

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Miki Hirano平野 美紀 
自然に魅せられ、6年半暮らしたロンドンからオーストラリアへ移住。トラベル・ジャーナリストとして各種メディアへの執筆、ラジオ/テレビ出演などで情報発信しながら、メディア・コーディネーターや旅行情報サイトの運営も。目下の関心事は野生動物とエコ。シドニー在住18年。詳細なプロフィールはこちら。
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